06.レックレス就職活動
そんなこんなでZ市に引っ越すことになったオレだったが、引っ越して来て1週間。早くも死の危険を感じていた。何が兄貴もジェノスくんもいるから大丈夫だ。 怪人だったらまだしも、隕石なんて聞いてないぞ。
ジェノスくんがS級ヒーローとして協会から呼び出されてすぐのこと。緊急避難警報が発令されたかと思えば、あと21分でこのZ市は消滅するらしい。ふざけんな。 こっちは越してきたばっかりだぞ、こんなとこで死ねるか馬鹿野郎。だが避難するにしたって時間が無さすぎるし、警報出すの遅すぎだろ。
兄貴も事の重大さを理解したらしく着替えて出て行ったが、相手が隕石となるとどうなるかわからない。だって兄貴は基本的な攻撃─いつもはパンチ─しかしないし、それで今まで敵をやっつけてきた。要するに特殊能力とかはないのである。 そんな兄貴が隕石相手にどう立ち回るのかと言えば、やっぱりいつものパンチしかないわけで、そんなことをすればおそらく……。
あぁ神様。どうか隕石の欠片がオレに降ってきませんように。
▼▽
「サイタマ先生はC級342位から一気に5位にあがってます」
「「5位!?」」
ジェノスくんの言葉に、兄弟そろって間抜けな声を出してしまった。というか兄貴、そんなにランク低かったんだな。ジェノスくんしか招集されないことを不思議に思っていたが、納得。どうせ筆記試験がダメだったんだろう。
あの後、案の定隕石をワンパンで砕いた兄貴のお蔭で、Z市の消滅は免れた。もちろんその砕いた欠片でZ市は今なお半壊状態だけれど、奇跡的に死人も出なかったようだし上出来の結果である。協会の方も兄貴の活動をたたえて一気に順位を上げるという大盤振る舞いを見せてくれたようだが、世間の兄に対する風当たりは強かった。もちろんそのことをジェノスくんとオレとで隠しているので、兄貴は知る由もないのだが……。
「ふーん、あの程度でこんなランクが上がるのか。よし、ちょっと外回りしてくるわ」 「ちょっ、兄貴待てって」
今外に出られたらまずい。一気に順位が上がったことだから、兄貴のことをよく思わない奴もいるだろう。もちろん普段ならそんな奴返り討ちだし気にするまでもないのだが、Z市半壊を兄貴のせいにしてヒーロー失格だなんていちゃもんをつけられてはたまらない。なにがたまらないって、弟として腹が立つし悲しいし悔しい。
「なんだよ」
しかし待てと言ったはいいものの、なんと言って引き止めるべきか。考えていなかったオレは話題に苦しむことになった。
「えっと、その、アレだよ……」 「どれだよ」 「アレだって、ほら、俺の仕事のこと」 「ん?決まったのか?」 「いや、まだだけど兄貴が夢を叶えたんなら、オレも叶えてみようかなって思ってさ」 「は?夢?」
いきなり何を言い出すんだこいつ?と言いたげな兄の顔に、オレも内心で何言ってるんだろと考えている。
「お前、夢なんてあったっけ?」 「うん、あるよ。そうだ、ジェノスくんには話したよな?な?」 「え、あぁ、はい」
すまん、無茶ぶりしてすまん。しかし兄貴ラブな(おそらく健全な意味で)ジェノスくんはオレが頑張っている理由を察したらしい。これも兄貴のためだ。なんか適当に話を合わせてくれ。
「歌手になりたいと……そう伺いました」
「「は?」」
あぁ、また兄弟の間抜けな声が揃っちまった。
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