05.ノーマネーノーライフ
「聞いてください、グンマさん。俺とうとう先生の弟子として認められました」 「へぇ、おめでとう。ところで、なんでオレの携帯知ってるの?」
今日も今日とて職探し中。幸い多少の貯金があったから生活できているが、そろそろ家賃がやばい。 そんな折、これまた解約しなきゃなと思いかけていた携帯に着信があって、どこぞの面接の採用連絡か?と期待したら違った。ごめん、ジェノスくんは何も悪くないけど、オレ今他人の幸福を素直に喜べる精神状態じゃねぇんだわ。
「先生から聞きました。それで、グンマさんにも是非こちらに来ていただきたく……」 「えっ、なんで?もしかしてお祝いパーティでもするの?自分で自分の弟子入りを祝すの?」 「いえ、実は先日先生と俺は正式にヒーローになったんです」 「へぇ、そうなの」
ヒーロー活動は趣味だって言ってた兄貴が、正式にねぇ……。 ん?ちょっと待って、じゃあ兄貴はもう職があるってこと?しかも趣味が仕事になった一番羨ましいパターン?なんだそれ許せねぇ。
「じゃあヒーローになったお祝いってことかな」 「いえ、そういうわけでも……とにかく来ていただけませんか?先生の家でお待ちしております」 「え、待ってもしかして今日?」 「はい、きっと無職のグンマさんなら急に呼び出しても暇だろうと……」 「正直も度が過ぎれば美徳じゃないよ……ま、わかった、行くよ。行けばいいんだろちくしょう」 「はい、楽しみにしてます」
ジェノスくん悪い子じゃないけど悪い子だわ。心が痛い。
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チャイムを鳴らすと、すかさず飛び出してくるジェノスくん。「お待ちしておりました」とりあえずパーティだと思っていた俺はなけなしの金で酒とジュースを買って持ってきたのだが、そんな気遣いは無用だったらしい。中に案内されるといつもの机の前に兄貴がだらっと座っていて、よおと呑気な挨拶をした。
「仕事は見つかったか?」 「……会っていきなりそれかぁ。一番聞かれたくないことだったのに」 「てーことはまだなんだな」 「残念ながら。で、兄貴は正式にヒーローになったんだって?一体どういう風の吹きまわしなんだよ」 「趣味でやってると変態扱いされるんだよ」 「なんだそれ。それってあの服に問題あるんじゃねーの?」 「うるせぇ」
我ら兄弟がそんな下らない会話をしている間にも、台所に立ったジェノスくんが何やら料理をしている。
「すみません、もう少しで出来ますから」 「あっ、いや、お気遣いなく……」
なんだこの子、嫁かよ。弟子になったんじゃなかったのか。思いっきり家に馴染んでるし、兄貴も何も言わないし。
「で、なんで今日オレは呼び出されたんだよ」 「お前さ、こっちに越してこねぇ?」 「は?」
出来ました、と絶妙なタイミングで皿を持ってくるジェノスくん。なんだこの美味そうなパスタは。イケメンは作るもんまでシャレオツなのか……じゃねぇ、今兄貴なんて言った?
「こ、こっちってZ市に?」 「うん、Z市の中でもこの辺特に人いねーからいつでも住めるしなんなら隣の部屋も空いてる」 「いやいや危険だろ、オレ死ぬって無理」 「なんかあったら俺もジェノスもいるし」 「じゃあ兄貴と住むわ」 「野郎三人はキツイ」 「三人?え?」
「お世話になってます」
どういうことだとジェノスくんの方を見れば、ぺこりと頭を下げられる。まじか。まじなのか……。
「兄貴、やっぱそういう趣味でも……」 「ちげーよ!弟子だから住むって言って聞かねーの!だいたい俺は弟を想って提案してやってんのになんだその態度腹立つな」 「すみません、本来ならば俺が隣の部屋に住むべきなんでしょうが、先生の強さの秘密を知るためにはやはり一番傍で観察したくて」 「いやいいよ、オレもこんな兄貴と住むの怖いし。それよりジェノスくん、ケツの穴無事?」 「お前ぶん殴るぞ」
兄貴のワンパンなんて食らったら即刻あの世行きだ。オレはいい加減口を慎むことにして、先ほどされた提案を真剣に考えてみる。
「ん〜でも引っ越すとしても金ないしなぁ。やっぱ無理」 「ここ家賃ほぼ要らねぇぞ。あと誰も来たがらないからZ市は求人多いし」 「今から荷物まとめて来るわ」
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