04.クリティカルヒット
「なぜ働かなければいけないのか!我々は断固働きたくない!」
その言葉は、目下就職先探し中のオレに相当響いた。普段ならそんな甘いこと言ってられるか、と鼻で笑い飛ばしてやるところだが、今現在は激しく同意したい。
しかしそれを高らかに主張しているのがテロリストで、関係ない人々を恐怖に陥れているとなると話は別だ。普通に怖いし、迷惑。というか怪人だけでもアレなのにテロリストとかやめてくんない?
しかもなんの因果かハローワーク帰りのオレは、そのテロリスト集団と鉢合わせしてしまい、ハローワークから出てきたという事実と厭世的な死んだ目(無自覚だったけど、奴らにはそう見えたらしい)を評価され、なぜか強引に仲間に……。
そりゃあ、確かに就職先は探してたけどさぁ、テロリストなんてやだよオレ。 しかもオレは兄貴と違ってハゲてないし、剃るつもりもない。ちょ、バリカン探さなくていいから!ほんと勘弁してください。
そして無理矢理話を聞かされた結果わかったのは、彼らがこれから大富豪ゼニールのところへ向かうということ。どうせ警備とか厳しいし無理っぽいけど、諦めてくれそうにないしなぁ。
なーんて甘いことを考えていたオレ、死んでくれ。というかマジで死にそう。 テロリスト集団の行く手を遮って現れたのは、全身黒づくめのいかにも忍者っぽいひとだった。
「待ってたぞ、ハンマーヘッド」
人数で言うなら、明らかにこちらが有利。ってあれ?なんでオレ”こちら側”感覚で考えてるんだろう。クソ、どうもスキンヘッドを見ると愛着がわいてしまう。 忍者さんは完全に戦闘モードで、皆殺し宣言。「ん?お前は髪があるな。人質か?」よかったぁ、オレハゲてなくて。毛根に感謝だわ。
しかしこの忍者さんはただの用心棒。ヒーローではないから一般人に配慮すると言う考えは無いらしく、おもむろに始まった戦闘に小さくなって震えているしかない。動きが早すぎてほとんど風しか感じることができないが、周りに散らばる無残な死体に気を失ってしまいそうだ。
そして実際、オレは少し気を失っていたらしい。気が付くと忍者さんもハンマーヘッドもおらず、呆然と立ち尽くしていた。なんなんだよこの状況。こんな目に合うなんてオレが何したって言うんだ。
「よ、よし、帰ろ……」
とりあえず逃げるなら今しかない。ふらつく足を叱咤激励して、この林か森かわからんところを抜けてやる。しかし数歩も行かないうちに、絶対に出くわしたくなかった後姿を見つけた。
「誰だ、そこにいるのは!」
ひゅっ、と風邪を切る音がして、顔ぎりぎりの所を何かがかすめる。振り返って見れば、後ろの木にクナイがぶっ刺さっていて……おいおい危ないだろ!こちらとしてはただやり過ごしたかったのだが、忍者さんはオレの気配を察知してしまったらしく、こちらを向く。なんだかやけに内股だし顔色も悪いが、どうしたんだろう。
「ちっ、なんだお前か。命拾いしたな」 「命拾いっていうか今も殺されそうになったんですけど」 「わ、わざと外してやったんだぞ!決して、痛みで手元が狂ったわけじゃないからな!」 「痛み?あの、股間がどうかしたんですか」 「言うな、殺すぞ」 「あっ、スミマセン」
よく分からないが、ハンマーヘッドもいないことだし、名誉の負傷なのかもしれない。にしても股間て。どうやったらそんなとこ負傷するんだ。やべ、面白くなってきちゃった。 オレは必死で笑いを誤魔化そうとしたが、その努力も虚しく。青ざめていた忍者さんが今度は羞恥と怒りのために真っ赤になる。
「き、貴様……!」 「わ、笑ってませんっぷっ」 「ぷっって言っただろうが!」 「違います、これ語尾です語尾!」 「そんなので誤魔化されるか!ええい、こんな姿を見られた上に笑われたなど、音速のソニック一生の不覚だ!覚えていろ!」 「え、えぇ……そんなぁ。つか音速のソニックってなに」 「俺の名だ、覚えておけ!ついでに貴様の名も聞いておいてやろう!」 「いや、結構です。じゃ、」 「お、おい!!」
あんな変な人に名前を教えて、探されたりしたら絶対に嫌だ。幸い自慢の音速(笑)も股間の痛みで今はほとんど意味をなさないようだし、今なら逃げ切れる。ふらついていた足は、笑っているうちに治ってしまったようだった。
「くそ!覚えてろよ!次に会ったらただじゃ置かないぞ!あのハゲといい、貴様といい……!」
クナイが飛んでくる前に、オレはすっとんで逃げ帰った。
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