03.押しかけサイボーグ
「なるほど、貴方は先生の弟さんだったんですね……髪があるので全く気づきませんでしたが、道理で納得がいきました」 「え?全然納得いってないの俺だけ?ジェノスとお前知り合いなの?あと髪は関係ねぇ」 「待って待って、オレとしては兄貴が先生って呼ばれてることの方が意味わかんない」 「安心しろ、それは俺もわからん」
狭い部屋に男三人。状況は混乱を極めている。 とりあえず、髪型が違うもののオレにはサイボーグの知り合いなど一人しかいないので、目の前の彼は昨日のジェノスさんなんだろう。大破してなくて髪も普通だと、こんなにイケメンだったのか。クソ、羨ましい。
まぁそれはさておき、今度は兄貴との関係だが、彼の長い話を要約すると師弟関係らしい。兄貴を尋常じゃないレベルで崇拝している彼は、オレがその弟だとわかるなり敬語を使いだした。怖い。
「あのなぁ、オレはまだ弟子にするなんて言ってねーぞ」 「お願いします!その強さの秘訣を知りたいんです!」 「ったく……ずっとこの調子なんだ。なんとかしてくれよグンマ」 「弟子にしてあげたらいいじゃん」 「……っ!グンマさん!」 「やだよ、そんな柄じゃねーし。めんどくせぇ」
鼻を掘りながらそう言い放った兄貴は、確かに先生という役柄の似合わない男である。確かにとんでもなく強いが、上手く人に教えられるタイプではない。真面目なジェノスさんが師と仰ぐには、いささか癖の強すぎる男だった。
「ていうか、グンマこそ急にどうしたんだよ。いつもはこの辺、危険だからってこねーじゃねーか」 「いやぁ、そうなんだけどさ、実はオレ無職に……」 「早速クビか?」 「いや、怪人のせいで崩壊しちゃって」
「……ま、そんなこともあるわな」
話を聞いても一切驚かなかった兄貴。まぁ最近やたら怪人が多いし、そう珍しいことではないのかもしれない。それで今日は飲み明かそうと思ったんだと手土産の酒を見せれば、そちらのほうに食いついていた。
「おー気が利くじゃねーか」 「え?グンマさん、お酒飲めるんですか?」 「の、飲めるけど……オレ22だし」 「そ、そうだったのか、てっきりオレと同い年くらいだと思ってました。本当に昨日から失礼してばかりだ」 「いやいや、全然!ジェノスさんこそ、いくつなんですか?」 「さん付けも敬語もやめてください!オレは19です」 「あ、若い」
19なら一緒に酒盛りは無理だ。というか、サイボーグって飲食できんのか?そんなことを考えていたら、また何やらジェノスさん……いや、ジェノスくんがぶつぶつ言いだした。
「クセーノ博士に救われたこの命をサイタマ先生に救ってもらい、さらにその弟のグンマさんにまで救っていただくとはなんていう偶然……いや、もはやこれは運命なんだ……」 「え、グンマ、ジェノスのこと助けたの?お前そんな強かったっけ」 「違うよ、助けられたのはオレのほう。オレはただジェノスくんを研究所まで運んだだけ」 「でも、結果怪人を倒したのはグンマさんです。オレがふっ飛ばされてる間に、ビルで怪人を押しつぶして……」 「だからあれはオレじゃないって!」 「先生といい、グンマさんといい、なんて謙虚な方たちなんだ……しかし俺はどうしても強くなりたい!その隠された強さの秘密を知りたいんです!先生、どうか俺を弟子に!」 「聞いちゃいねぇ……」
悪い子ではないのだろうが、とにかく周りが見えなくなるタイプらしい。またも話がループしてきて、兄貴はうんざりとした表情を隠しもしないでいる。
「あーもう、わかったから今日は帰れって」 「で、では弟子に……?」 「するとは言ってねぇ。つか、お前空気も読めねーのか?」 「はっ……!俺としたことがせっかくの兄弟水入らずを……すみませんまた明日出直します」 「明日も来るのかよ」
隣で聞いてたら、兄貴結構酷いなぁと思わないでもないが、まったくめげないジェノスくんを見ていたらある程度仕方がないことなのかもしれない。
「なんかごめん、邪魔して」 「い、いえ、俺のほうこそ、グンマさんと先生の邪魔してすみません。それではまた」
ほんとに礼儀正しくて真面目な子だ。だからきっと宣言通り、明日もここに来るのだろう。
「兄貴、ほんとに弟子にしてやんねーの?」 「……さぁな。そんなことより、飲むぞ」 「まだ昼間なんだけど、ま、いっか」
どうせ俺は無職だし、兄貴もそう大差ないからな。
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