解散宣言
- ナノ -



02.イメージチェンジは斬新に

どうして気づかなかったんだろう。

昨日、オレを怪人から救ってくれたあのビル。今でもそれは感謝してるけど、よく見たらあれうちの会社じゃん。いきなり無職だけどどうしてくれんの。

何も考えずにいつものように会社に向かったオレは、そこに残った会社の残骸──もはや跡地を見て呆然。幸い、ホワイトな会社なので残業組はおらず、怪我人は出なかったようだがこれから一体どうしていけばいいのだろう。上のお偉いさん方もどうやらてんやわんやのようで、どこにも保障や次の就職先を期待できない。

あぁ、やっぱ就職って難しいんだな……。

3年前、兄貴があんなにも苦労していた就活。なのに弟のオレはすんなり内定をもらって、なーんだと拍子抜けしたっけ。しかし今から考えれば、オレはただラッキーだっただけなのだ。ほんとにこれからどうしよう。まだ社会人二ヶ月目だよ??

本当なら今からでもすぐに次の職探しをせねばならないが、今日はだめ。全然やる気でない。そう気持ちの切り替えがすぐにできるかよ。

というわけで、オレは今日その兄貴を訪ねることにした。兄弟仲は悪くないほうだと思うが、なにせ兄貴の住んでるところがヤバイのであんまり会っていない。時々電話で連絡は取っているが、野郎同士で長電話っていうのもそう盛り上がらんしな。
兄貴も自由人だから新たな就職先の伝手なんて期待しちゃいないが、愚痴くらいは聞いてくれるだろう。あのぼけっとした兄貴と酒でも飲んで馬鹿をやれば、大抵の悩みなんてどうでもいいと思えてくるはずだ。

「よし、そうと決まったら酒でも買うか」

手土産さえ持って行けば入れてくれるだろう。
しかし兄弟水入らずでの晩酌を期待していたオレを待ち受けていたのは、予想もしない厳しい現実だった。


▼▽

「えーと、ここだよな……」

Z市ほんと人いねぇ。
前に教えてもらった住所をもとに、兄貴のアパートを訪ねたオレ。
まぁゴーストタウンだってのは聞いてたからいいんだけど、目当ての部屋の中から何やら人の言い争う声がする。確か兄貴は一人暮らしのはずなんだけど……なんだこれ取り込み中?アポなしで来たオレも悪いから、どこかで時間を潰してからもう一回来るかと考えたが、Z市でうろついてたら死にそうなのでやっぱ無理。

仕方がないから、意を決してチャイムを鳴らしてみた。

ピンポーン。

「……」

途端に静まり返る室内。えっ、まさかの居留守?

あれだけうるさくしておいて、今更それは厳しいんじゃないの。
オレはめげずにもう一度押す。沈黙。押す。沈黙。押す押す押す押す押す──

「っだぁぁぁ!!うるせぇぇえ!!新聞なら要らねってんだよ!」

案の定ぶち切れて扉を開けた兄貴。予想していたオレが扉から離れてなかったら、絶対に怪我してたぞこの勢い。「ごめん、オレ」目が合って、兄貴が驚いた顔をする。そしてその後ろから、俺が撃退します、と何やら怖い顔をして出てきた美青年。

「俺の先生にしつこくするとはいい度胸ですね……って、君は」
「え……」

ちょっと待って、口論の相手ってこの美青年?なに、俺の先生って。まさか兄貴ってそういう趣味だったの?

「な、なんかよくわからんけど、邪魔したよな……ごめん帰るわ」
「ちょ、待てグンマ!お前絶対なんか勘違いしてる!やめて帰らないでお願い!」
「ぜ、絶対誰にも言わないから!だから許して離して掴まないで!」
「離すかばかやろう!ちゃんと話を聞けって!」

「あ、あの、グンマじゃないか?先生とは一体……」

力では叶わないので無理矢理に中に引きずり込まれたオレに、美青年が話しかけてくる。さっきはあまり見てはいけないだろうと目を反らしていたが、教えてないはずの名を呼ばれオレは自然とそちらを向いた。え……なんか腕とか機械じゃね?サ、サイボーグ?

「え?あっ、え?髪型変えた?」

混乱したオレは、どうでもいいこと口走ってしまう。

だって昨日会った時は、アフロだったんだもん。