20.ザ・ラストデイ
協会本部の会議室に通されれば、そこに集まっているのはそうそうたるメンバー。入っていきなりちょんまげ頭の男を目にして、一瞬来る時代を間違えたかと思った。
「おお、シルバーファングは来ると思ってたぞ。あとはサイボーグジェノスと……ん?知らんのがいるな」 「私が呼んだのよ」 「お、タツマキがか……?」
で、でた!今日は浮いていないけれど、あのくるくるとした緑色の髪は間違えようがない。思わず兄貴の後ろにちょっと隠れれば、タツマキさんの眉が不愉快そうにしかめられた。
「ちょっと、誰よこのハゲ?私が呼んだのはそこの弱虫だけなんだけど」 「あぁ、彼はB級のサイタマ君じゃ。いずれS級上位になる逸材だし連れて来ても問題なかろう」 「なにそれ、普通誘われても来るかしら?どういう神経してんの?」 「まぁまぁ。それにサイタマ君はキミが呼んだグンマ君の兄でもあるんじゃ」 「……ふーん、一人じゃ怖かったからお兄ちゃんについてきてもらったってわけ?情けない」 「なんだこの生意気な……迷子?」
そりゃいきなり突っかかられて困惑する兄貴の気持ちもわからないでもないが、タツマキさんを怒らせるような発言はやめてほしい。ジェノスも簡単に説明するだけしてほとんど無視だし、なんでみんなそんなメンタル強いの? この場にはS級6位のメタルナイトと1位のブラストを除いたS級ヒーローが集合していて、オレと兄貴はランクでいうと確かに場違いな感じだった。
「あの、それで……なんでオレは呼ばれたんですかね?」 「言っとくけど、S級とお近づきになれただなんて勘違いしないでよね!私にとってあんたは邪魔以外の何者でもないんだから!」 「こ、この前のことなら謝ります!あんときは気が動転して、タメ口きいちゃったし、怪人も逃がしちゃったし……」 「それよりもあんたは黙ってること!」 「え?ちょ……!?」
不意に身体が動かなくなって、どこからともなく飛んできたロープでぐるぐる巻きにされる。口には猿轡をかまされ、抗議をしようにも声が出ない。「おい、グンマになにすんだ」さすがの兄貴も驚いたようで、タツマキさんに向き直った。
「うるさいわね、こいつの声が邪魔なのよ。S級招集の非常時なんだもの。この男を黙らせておかないと安心して力が使えない」 「はぁ?何言ってんだ?」 「わかんないなら黙ってて。別にこれ以上はどうこうしないわよ」 「これ以上って、既に大概だぞ」
大丈夫か?と聞いてくる兄貴にとりあえず頷いて見せる。なるほど、呼ばれた理由がわかってちょっとほっとした。扱いは酷いがこれだけで済むなら我慢する。一応折れてるほうの腕は縛られていないし、危害を加えるつもりはないのだろう。オレとタツマキさんの間にあった出来事を知らない皆は不審そうだったが、積極的に関わる気はないらしい。なんか囚人服来たゴツイ男にウインクされたけど、それはこちらとしても関わって欲しくない。 兄貴もオレが大丈夫だから、と何度も頷いて見せれば呆れた顔をして席に着いた。
「んで、今回はなんの集まりなんじゃ」
さて、いよいよ本題か。バングさんの言葉に、オレは無様な姿のまま緊張する。お茶を欲しがる呑気な兄貴もそうだが、案外他の皆も気楽そうだった。「不在の者がいるが、これ以上待っても埒が明かないので緊急集会を始める。早速本題に入らせて頂こう」説明役の人が話し始めても、場の雰囲気が引き締まることは無いんだからある意味協調性が無いともいえるが……。
「ヒーロー界の頂点に立つ君たちに集まってもらったのはほかでもない。今回は地球を守って頂きたいのだ」
ドンッ、と勢いよく机を叩かれて、思わずびくりとしてしまう。 それにしても、え……なんて……地球?
「命を落とすかもしれない任務だ、辞退するなら今のうちに。だが今から言う話を聞いた者は逃がすわけにいかなくなる。覚悟はいいか?」
いきなり規模のでかすぎる話に、正直頭が追いついていない。任務で呼ばれたわけではないので辞退とはまた別だが、そんな話聞きたくない。けれど、猿轡されてるのでそれも言えない。 そしてオレが一人で動揺している間にも話は進み、大預言者シババワ様が最期に残した予言が示される。
『地球がヤバイ!!』
こんなもん予言でもなんでもねぇ!とツッコミたいが、すごく真面目な雰囲気だ。 なにしろ彼女の予言は半年以内に100%当たる。ということはつまり……
「半年以内ってことは明日かもしれないし、今日かもしれないしな」
まったくもってその通りだよ、兄貴。
協会本部が揺れている。予言の日はまさに今日だったのだ。
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