11.これから人生ハードモード
A市にあるヒーロー協会。 本日そこでヒーローになるための認定試験が行われていた。
「次!」 「はいっ!」
試験官の合図とともに、オレはスタートラインに立つ。ジェノスに強いられた鬼のような特訓の日々の成果を今こそ見せる時が来たのだ。毎日10キロ走っているので、この1500m走は自信がある。もっとも、兄貴が打ち立てた記録には遠く及ばないだろうけど……。
「おい、あいつ意外と速いぞ」
意外と、は余計だが他の受験者の驚いた声は聞いていて気分がいい。受験者の中にはどう見たって普通のおっさんたちもいるし、C級になること自体はそう難しくないのかもしれない。受験者全体からして、オレは上位のほうだと思う。きっと試験自体より受かってからの方が、怪人との戦闘で負傷したり、ヒーロー同士で潰しあったりと大変なのだろう。
試験の内容は大きく分けて体力測定と筆記試験である。 先に体力測定があり、上記の1500m走の他に、反復横跳び、重量上げ、垂直跳びなど数種目の競技でヒーローの資質を問うのだ。 しかしオレの本命はあとで行われる筆記試験の方。幸い、満点合格したらしいジェノスからだいたいの出題傾向は聞いていたし、ここで点数を稼いでおかないと!という思いもある。
「待ってろよ、絶対合格通知を家に持って帰ってやるからな……!」
▽▼
「おめでとうございます、グンマさん。一応形としてはグンマさんに指導した身ですので、俺も自分のことのように嬉しいです」 「お、おう……」
試験とその後の講習を終え、帰宅するとジェノスに祝福とともに迎えられた。一応、受かったから良いものの、オレがまだ何も言わないうちから受かった前提で話してくるこいつの感覚が怖い。
「ま、ありがとな、ジェノスのお蔭だわ」 「いえ、グンマさんも頑張ったと思います。最初の頃なんてあまりの体力の無さに、いっそサイボーグ化したほうが早いのではと思ったくらいなので」 「うん、やめてお願い」
あぶねー。改造されるとこだった。 確かに肉体的な強さをすぐにつけるにはサイボーグ化が早いのかもしれないが、流石にそこまでやる勇気はない。しかしサイボーグ化以外にも話したくない話題があったオレはジェノスを避けるようにして夕飯待機中の兄貴の隣に腰を下ろした。
「うっす、お疲れ〜今日からグンマもヒーローだな」 「あざす、で、今日のメシなんなの」 「シチューらしい」 「やった!オレの好きなもんじゃん!」 「俺はカレーがいいって言ったんだけどよ、ジェノスが今日はグンマの祝いだからって聞かなくてさ〜」 「あぁ、そうなんだ……」
いつも兄貴至上主義のジェノスが、兄貴の意見を押し切ってオレの好みに合わせただと……!?やっぱり自らトレーニングに付き合ったから、気にかけてくれていたのだろうか。普通なら嬉しくもあるが、あまり過度に期待をかけられるのも……。
「そういえばグンマさんは何級からのスタートなんですか?筆記の方もしっかり対策していたようですし、ほとんど満点だったのでは?」 「えーと……」 「おい、なんだよグンマ勿体ぶるなよ。俺もギリギリだったし笑わねーって」 「いや、兄貴は別にいいんだけど……」
目を反らしながら協会から貰った認定証をジェノスに差し出す。あれ、なんかこれ悪かったテストを母親に見せてるガキみたいだ。どんな反応が返ってくるのか怖くて、ジェノスのほうをまともに見られない。
「……72点?」 「なんだ、俺よりいいじゃんつまんねー。お前も筆記がダメだったのか?」 「い、いや、筆記は満点だったんだけど……」
筆記が悪かったなら、別に気にしなかった。あれは自己勉強しかしてないから。でも悪かったのは体力測定のほうで、お蔭で合格点ギリギリだ。試験中は自分ができてるほうだと思っていたが、ただ単に今回の受験者がハズレ回だっただけらしい。
「あ、あの……ジェノス?オレ、頑張ったつもりなんだこれでも。ほんとこの点数とれたのもお前のお蔭だと思ってるし!」 「……なるほど、先生のときといい、やはりあの協会の試験には一言申さねばならないようだな」 「いや、違うから!試験は悪くない、オレが悪いの!」 「……いえ、それを言うなら俺も甘やかしすぎたみたいですね。すみませんグンマさん、これからはもっと厳しく行かせてもらいます」 「ごめんそれは許して!マジでごめん!」
どちらにせよ、謝り倒すしかない。
こうしてオレは晴れてC級最下位からヒーローを始めることになりました。 しかし苦難の道はどうやらこれからのようです。
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