■ 30.いつもと違う表情
白いワンピースに合わせて、今日の髪はゆるりとウェーブのかかった茶髪にした。
毎回毎回姿かたちを変えるから、待ち合わせが非常に面倒だ。
もうヒソカの時はこれ、みたいなテンプレ作っちゃった方が楽かもしれない。
ユナは待ち合わせ場所に立っているヒソカを発見すると、後ろからとんと肩を叩いた。
「メリルかい★?」
「他に誰がいるのよ」
「いや、さっきから、何回も知らない女に声をかけられててね…。
まぁ白いワンピースって言ったけれど、キミが素直に着てくれるとは限らないしさ💛」
「素直で悪かったね。
あと、さらっとモテますアピールうざいから」
レストランに行く、と言っていただけのことはあって、ヒソカもちゃんと髪を下ろし、まともな服を着ている。
だから逆ナンくらいされてもおかしくないはない容姿なのだが、それをわざわざ口に出す時点で性格はイケメンじゃない。
だが、ユナの辛辣な言葉にもヒソカは嬉しそうな顔をしただけだった。
「流石メリル☆
その歯に衣着せぬ物言いが爽快だねぇ。
ボクもキミ以外の女からモテたってちっとも嬉しくないよ💓」
「あっそ」
ユナは素っ気なくそう返事をして、時計を見る。
午後6時。
ディナーには少し早いかもしれないが、それなりの時間だ。
ちゃっちゃっとご飯だけ済まして、さっさと帰りたかった。
「あのさ…確認するけど、キミ、今はボクの彼女なんだよね★?」
「うん、そうらしいね」
ユナのあからさまな態度にヒソカは引きつった笑みを浮かべる。
正直、『彼女』とか言われても、これまでユナはまともに恋愛したことなかったし、イルミともスピード結婚で恋人らしい何かをしたわけでもない。
だからどういうふうに振舞えばいいのか、何が普通なのかもわからなかった。
「彼女なのに、全然優しくないんだけど…💛」
「倦怠期のカップルなんだよ」
「いきなりなんでそんなハードな設定なの…☆」
「リアリティを追求してみた。
あ、でも彼氏なんだからご飯奢ってね」
「キミってホント……」
ヒソカはそこまで言って、深いため息をついた。
「まぁいいよ、最初からそのつもりだったしね★
じゃあレストランに行こうか」
「うん」
ヒソカはこんな私と一緒にいて何が面白いんだろう。
ふと浮かんだそんな疑問は
─どうせ気まぐれなヒソカのことだ
たったのそれだけで片付けられた。
**
「わぁ…すごいね、ヒソカ」
どんどんエレベーターで登っていき、たどり着いた先は高層ビルのレストラン。
今までだってヒソカが連れて行ってくれるところは良く言えばお洒落で、悪く言えばキザだったけれど、今日のはいつも以上だ。
綺麗な夜景を眺めて思わずこぼれた感想に、ヒソカは驚いたように瞬きをした。
「…どうしたの?私何か変なこと言った?」
「いや、メリルが喜んでくれたことに驚いてね💓」
「なにそれ、私だって綺麗なものくらいはわかるよ」
「そうじゃないよ。
ただ、キミってあんまり物喜びしないじゃないか☆」
ヒソカの指摘に、そうかもしれないと自分で頷く。
昔から、ユナの欲しいものは形のないものだった。
それは母の注目だったり自由だったり居場所だったり……
ユナは自嘲気味に少し口角を上げると、もう夜景には興味を失ったようにメニューへと視線を落とした。
「ボクはてっきり、キミが男から貰いなれてるのかと思ってたよ💛」
「そんなことはないと思うよ。
ただホントに欲しいものが他にあるだけ。
愛とか、自由とか」
「…変なことをいうんだね◇」
「常時変なヒソカに言われたくないんだけど」
「キミって冗談とか言うタイプだっけ★?
それとも本気?」
「え、本気でヒソカのことは変だと思ってるよ」
「そうじゃなくて…」
ヒソカが口ごもったタイミングで、ユナは壁際で待機していたウェイターを呼び、注文をする。
つられてヒソカもそのまま注文をし、もうそのままこの話は流れるかと思った。
「…愛が欲しいのかい💓?」
「……まだその話するの?いいじゃない別に」
「それって、キミに特定の相手がいないと思っていいってことかい☆?
彼氏とか旦那とか」
彼氏、はまだしもどうしてそこで旦那が出てくるのか。
ユナは内心ドキリとしたが、さぁ…?ととぼけた。
「少なくとも、私今はヒソカの彼女なんでしょ?
そういう設定じゃなかった?」
「それもそうだね…💛」
変なのはヒソカの方だ。
いつも無駄にニヤニヤしているくせに、今日はやけに真面目な顔しちゃってさ。
運ばれてきた前菜をフォークの先端でつつきながら、正面のヒソカの表情を盗み見る。
化粧をしてない今の貴方が、本当の貴方なの?
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