■ 暗黒大陸編 クロロとクラピカが船内で会う
※ 元はTwitterで細切れにupしたSSなので繋ぎ目ガバガバ&地の文少ないは許してください
下層で問題が起こったとミザイストムから連絡があった。念の均衡はどうやらこの船全体で崩れつつあるらしい。
上層とは異なる雑多な人間の波をかき分けたクラピカは、警戒しながら現場に向かう。
そのとき、ふと見知った顔を見つけて思わず驚愕に目を見開いた。
「貴様っ…!なぜここに!」
見間違えるはずない。そもそも相手は隠れようともしていなかった。
大声を上げたクラピカに、人並みは割れる。けれどもクロロは緩慢な動作で、物でも見るようにこちらを見ただけだった。
クラピカは反射的に鎖を構えるが、クロロは微動だにしない。目が合っているようで、合っていないのだ。
「ああ…」
暫くの沈黙の後、ようやくクロロが思い出したように呟いた。
「悪いが、今お前の相手をしている余裕はない」
言いながらすぐ目を反らしたクロロは、そのままクラピカの横を通り過ぎようとする。
「ま、待て!ふざけるな…っ!」
予期せぬ遭遇。それはお互い様だが、浅からぬ因縁だ。少なくともクラピカはそう思っている。
すれ違いざま、クロロの肩を掴み、思い切り振り向かせた。奴なら躱すことも振り払うこともできただろうに、それすら億劫だと言わんばかりにクロロの身体はいとも容易く反転する。
しかし、
「っ…!」
憎しみをぶつけてやろうと勢い込んだクラピカは、至近距離でクロロと目が合ったことで言葉を失った。
ヨークシンで見せていた、ふてぶてしいまでの余裕はそこになかった。光を宿さない底なしの瞳はまるで自分だ。復讐心のみに囚われ、緋の目の制御が効かない頃の自分そっくりだ。
「団員の……仇討ちか?」
思わず憎いはずの敵を慮るような言葉を発してしまう。この男がこんな顔をする理由は他に思い当たらない。
クロロは黙って自嘲するように口角を上げた。
「因果応報、ということなのだろうな」
自分の仇が横取りされたという事実は今、クラピカの頭から抜け落ちていた。
「誰だ、相手はこの船内にいるのか?」
「それを聞いてどうする、お前には関係ないだろう」
「……」
確かにクロロの言う通りだ。だが、全くの無関係だと言われるほど外野でもないはずだ。
「私は…私はずっと、お前達蜘蛛を倒すと決めていたんだ」
振り絞るように零した決意に、クロロは表情を変えない。
「ならば殺るか?俺は忙しい。だが、邪魔をするなら容赦はしない」
それは挑発というより事実を述べただけという雰囲気だった。「第一、お前にもやることがあるんじゃないのか?」
指摘され、継承戦のことを思い出したクラピカは唇を噛む。不本意だ。屈辱だ。だがこんな形では同胞は浮かばれない。何より、クラピカ自身が納得できない。こんな片手間な扱いをされて、馬鹿にされて、許せなかった。
肩を掴んだ手には痛いほど力が込められていたが、やがてそれは力なく垂れ下がった。
「……いや、今はやめておこう。喪失と復讐の苦さをせいぜい思い知るんだな。お前を倒すのはそれからでも遅くない」
苦し紛れの挑発は、ほとんど本心だった。
「そうか」
クロロは無表情のままそう言って、廊下を歩き去っていく。
その後ろ姿はこれから誰かを殺しに行く死神というより、いつまでも黄泉へ行けず彷徨う亡霊のようだった。
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