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■ 突きつめた欲求

人間の三大欲求が、食欲、睡眠欲、性欲だなんていったい誰が決めたんだろうね。

ボクは今でも、キミの言った言葉が忘れられない。それは上のボクの台詞に対して、キミが返した時のものだよ。キミはこう言った。私には愛欲しかないよ、って。驚いたよ。
キミは言ってしまえばなんだけれど、見た目が子供っぽいだろう?普段から色恋に興味もなさそうだったし、これと言って遊んでいる噂も聞かない。今だから言うけど、ボクの中でキミはイルミの次に淡泊そうに見えていた。あ、これはもちろんイルミには内緒ね。
だけどそんなキミがいきなり愛欲だなんて、三大欲求のこれまた一番過激なやつを言い換えたような言葉を言うものだから、本当に意味がわかっているんだろうかと疑わずにはいられなかった。

とはいえまぁそのあとすぐ、キミがスイーツバイキングに行っていたことも知っている。マチやパクと随分楽しんだそうじゃないか。どうしてボクも誘ってくれなかったんだい?さては女同士固まって、ボクの噂でもしていたんだろう。

しっかり食欲を満たしたキミはそのあとホームに帰って慣れない酒を飲み、次の日の昼過ぎになっても起きてこなかったね。そもそもキミは他人に起こされなきゃ、いつまでたっても寝ている。起こしに行ったパクが、あと5分だけと無駄な抵抗をするってぼやいていたよ。睡眠欲の塊だね。

だからもちろんボクはキミにもちゃんと二つの欲求があるよって教えてあげたんだけれど、結局肝心の性欲が見つからない。キミは笑ってじゃあ抱いてみてよ、と言ったね。言ってないとは言わせないよ。あの時のキミは別に酔ってもいなかった。

「私はヒソカを食べたいし、ヒソカと眠りたいし、ヒソカとそういう関係にだってなりたいよ」

でもこれは全部突きつめれば愛欲だよ、なんて。
いつもはボクが笑ってキミは笑わないのに、この日は逆だったね。ボクはきっと皆がびっくりするくらい真面目な顔をしていたと思う。鏡で見てないから確証はないけど、偽ろうとも思ってなかったからたぶんね。
キミがこのボクをそういう意味で好いているだなんて考えたこともなかったんだ。だって何度も言うけど、キミって何事にも淡泊だろ?露骨に嫌がるマチとは違って、ボクに対しても誰に対してもわけ隔てなく平等だった。逆に言えば興味が無いように見えたんだよ。ほら、キミってからかっても怒りもしないし。正直、つまらなかったんだよねぇ。

でもまぁそんなストレートなアプローチをされて、流してしまうのは男としてマナー違反だろう?つまらないとは言ったけど、キミは見た目もそう悪くないし。
何よりそういう行為に及ぶキミが新鮮で、ちょっと見てみたかったんだ。

「ナマエはいいのかい?ほんとに?」
「うん、いいの」
「……キミって、いつも何考えてるのかわからないよねぇ」

あるいは何も考えてないのか。
なんて言ってもキミは怒らない。一回抱いてそれっきりでも、文句も言わなきゃ恋人面もしない。三大欲求にボクを含めて絡めたくせに、たった一度で満たされるものなのか。
それからまた何事もなかったみたいに皆の前で会話をする度、ボクはキミにからかわれたのかと思ったよ。もしくは罰ゲームとか。自分でこんなことを言うのも、結構傷つくんだけどさぁ。

ねぇ、ナマエ。キミはボクのことが好きなのかい?そういえば一度も好きだと言ってもらってないね。もしかして体目当て?それはそれで興奮するけど、キミはそんなタイプでもないだろう。ボクは気づけばキミのことばかり考えていた。ねぇ、ナマエどうなんだい。



人間の三大欲求が、食欲、睡眠欲、性欲だなんていったい誰が決めたんだろうね。

ボクはこれに戦闘欲を入れたいと思う。ボクらしくていい考えだとキミは言ったね。まぁ戦闘狂なのは否定しないよ。人生は楽しんだもの勝ち。刺激的なことはなんだって大好きさ。でもね、そうするとボクの場合は四大欲求ということになる。ちょっと、人を欲張りみたいに言うのはよしてくれよ。そもそも人間の大きな欲求が三つだなんて誰が決めたんだい。キミなんて突きつめればひとつだと言ったじゃないか。

で、ボクは当然ひとつになんか決められないんだけど、もう四つも五つも六つも変わらないと思うんだよねぇ。だから数ある欲求のうちのひとつにキミを入れようと思うんだけど、やっぱりボクもキミを食べたいしキミと眠りたいしキミとそういうコトしたい。あとまぁついでに、キミと戦ってみたくもあるね。血まみれのキミはきっと綺麗だろうから。


「ほら、突き詰めれば全部愛欲じゃない」

キミはそう言って、本当に嬉しそうに笑った。確かに言われてみればその通りだ。

「好きだよヒソカ」
「ナマエが何を考えてるか、やっとわかったよ」
「じゃあもう飽きちゃった?」
「いいや、まったく」

ボクも好きだよ、ナマエ。
ホント、人間の三大欲求が、食欲、睡眠欲、性欲だなんていったい誰が決めたんだろうね。

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