■ ◆ポジティブ君と天邪鬼ちゃん
ナマエは天邪鬼なんだそうだ。
照れ隠しか、それともミルキがよく言うツンデレってやつなのか、思っていることの反対を言うらしい。
オレもそんな彼女に初めは戸惑ったりイラついたりしたけれど、ヒソカに言われてとても納得した。
そして逆にオレは思っていることをはっきり言うタイプだ。
本当に思っていることしか言っていないのに、彼女に「恥ずかしくないの?」と怒られる。
たとえば今も。
「暇だねー。イルミってたまにしか休み無いくせに、その休みの日も針の手入れとかどんだけ仕事人間なの」
ごろん、と人のベッドに無防備に横になって、彼女は暇だーと叫んだ。普段は彼女も暗殺をやっていて忙しいから、こうして休みが被ることは少ない。そしていざ二人で休みになってみると、暗殺ばっかで育ってきたオレ達は互いに何をして時間を潰せばいいのかわからなかった。
「別に、ナマエがいるからオレは暇じゃないよ。何もしてなくても居てくれるだけでいいし」
「はいはい、またそんなこと言って…恥ずかしくないの?
イルミは暇じゃなくても、私は暇なのよー」
意味もなく、手足をばたつかせる彼女。
そうか。暇なのか。
ナマエと付き合い始めたのは2か月ほど前。母さんの勧める見合いが嫌で、知り合いの彼女に恋人のフリを頼んだ。
だけど、フリを続けているうちにナマエといるのはとても居心地がいいことに気づいて、オレ達はそのままの関係を続けている。
イルミは針を磨く手を止めると、ソファーから立ち上がってナマエの傍に行った。
「じゃあ、どこか行く?」
「え?」
「暇なんでしょ?」
そういえばカムフラージュのために母さんの前では手を繋いだり腕を組んだりしていたけど、まだデートもキスもしていない。
そろそろそういう雰囲気になってもいいはずなんだけど、彼女はどう思ってるんだろう。やっぱり、そういうことは大事にしたい派?それとも天邪鬼だから、したいけど言えないのかな。
でもきっと直接聞いたら「したくないし」って言うに決まってるから、オレもそこは考えないといけなかった。
「…私別にそんなつもりで暇って言ったわけじゃないよ。
でも、どこかってどこ…?」
「ナマエの行きたいとこ、どこでも」
「特に無いよ」
「それって、オレと一緒にいるだけでいいってこと?」
「だからそれがつまんないって言ってるんだけど」
「ははは」
あーもう。ナマエは天邪鬼だから、そんなことを言われてもオレは傷つかないって。
むしろ、照れてるんだな、と嬉しくなる。わかってるよ、と言ってやりたくなる。
彼女は僅かに口角を上げたオレを見て、怪訝そうな表情になった。
「イルミ変だよ、気持ち悪い」
「うん。でもたまには正直な気持ちも聞きたいな」
「え、心の底から気持ち悪いと思ったよ」
天邪鬼な彼女はなかなか素直になってくれない。
でもその分オレが素直になればいいだけの話で、むしろオレ達は相性いいんじゃないかと思う。
ベッドから起き上がった彼女は、それよりもさ、と口を開いた。
「私っていつまで恋人のフリ続ければいいの?」
「え?」
「休みの日はとりあえずここに来てるけど、もうそろそろイルミのお母さんは信用してくれた?」
「……ちょっと何言ってるかわからない」
恋人のフリ?
そんなのとっくに終わってオレ達はもう付き合ってるよね?
あれ、これも新手の照れ隠しなの?
だけど、オレの言葉に彼女はきょとんとした顔をしているだけで、別に照れている風でもない。
首を傾げて、「イルミ大丈夫?主に頭」と言った。
「…オレ達って付き合ってるんだよね?」
「そういうことになってるね」
「だよね、あーびっくりした」
いくらなんでも天邪鬼が過ぎるよ、ナマエ。
まずはデートをしようか。
特に行きたいところがないって言うのは、オレと一緒ならどこでもいいってことだよね。あぁ、暇って言ってたのは、さてはかまって欲しかったんだな。
「わかったよ、ナマエ」
「え、何が」
「いいよいいよ、言わなくて。オレはちゃんとわかってるから」
「だから何が」
イルミやっぱ変、と顔をしかめた彼女はそう言いつつも出かける支度を始めていて。
天邪鬼だなぁ、なんて思った。行きたいなら初めからそう言えばいいのに。
早くナマエの口から「好き」って言葉が聞きたいよ。
もちろん彼女の場合に限り、「嫌い」でも嬉しいんだけれども。
End
[
prev /
next ]