■ ◆ニセモノメイクラブ
※企画テーマ「夢魔」
「昨日、ヒソカと何話してたの」
「え…別に大した話じゃないよ」
珍しく仕事帰りに飲みに誘ってこないヒソカに、何か変だなと半ば直感めいたものを感じて。
問い詰めてみたら案の定、このあとナマエと会う約束してるんだよねぇ、なんて。
まぁそうでなくてもどうせあのピエロのことだから、オレが聞かなくても自ら喋っただろう。
それこそ自慢気に。わざとオレの神経を逆なでるように。
オレがもう長らくナマエに想いを寄せていることを知った上でのその行動なんだから、本当にタチが悪い。
手を出したら殺す、と常日頃から釘を刺してはいるものの、やっぱりあいつは信用ならなかった。
「ふーん、わざわざヒソカと会うなんてお前も物好きだね」
「まぁ、面白いしね」
なにそれ。オレとの方が付き合い長いだろ。オレと喋ってても楽しくないって言うの?
確かに口数は多い方ではないし、自分は人を楽しませるような話術を持っているとも思わない。
だけど、親同士の繋がりで小さい頃からお互いの家を行き来していて、会話は無くたって落ち着くとかそういうのはないわけ?
今だって現にナマエはオレの部屋に来ても、自分の家のように寛いでるじゃないか。
不機嫌さを隠そうともせず、オレは足を組み替える。本当はナマエ達が何を話していたか、全部知っていた。一旦家に帰ったオレだけど、やっぱり気になって追いかけたのだ。
だから彼女が一体何を企んでるかも知ってるし、それはオレにとって嬉しいことなのだけど、やっぱり相談相手にヒソカを選んだのが面白くない。
不機嫌なまま、寝る、と言った。そして、「昨日は寝てないんだよね」フラグを立てた。
本当は2週間くらい寝てなかったけれど、きっとそう言ったら馬鹿なナマエは気を遣って作戦を実行しないから。
いつもはこんな時間に寝ないけれど、これからどんどん暗くなっていくだろうからちょうどいい。
「おやすみ」
「うん、じゃあ私は帰るね」
布団に潜って、思わず緩んでしまいそうになる顔を隠した。
どうせ後で来るくせに。
※
それから2時間経ったくらいだろうか。最近寝てないのは事実だから、こうしてベッドの中にいるとだんだん微睡んでしまう。
もちろん、彼女が来た時のためにさっきからずっと寝たフリをしているわけだし、ただじっとしているのはどうしても暇だ。
そんなことを考えていたら、やがてオレの部屋の扉がじわ、と開いてこちらを伺うような気配。
来た、と思った。
待ち焦がれた、可愛らしい夢魔が。
「…イルミ?」
起こす気なんてちっともない、控えめな確認だけの呼びかけ。
オレはもちろん返事をしない。
すると中に入ってきたナマエはオレの足元に立ち暫し逡巡した後、ゆっくりとベッドの上にのぼってきた。
ぐい、と彼女の体重の分だけふかふかのベッドは沈み込む。ナマエはやっぱりまだ迷ってるみたいだ。オレの頭の横に両手をついて、そこから固まってしまっている。慣れないことをするからだろ。
その状態が10分くらい続いて、オレはとうとう我慢が出来なくなって、彼女の腰を抱き込んで引き寄せた。
「きゃっ!え、ちょ!?」
「夜這いだなんて大胆だね、夢魔さん」
なんで…!と激しく動揺するナマエに、あぁ駄目だ。にやけそうになる。
ヒソカの下らない案だとしても、本当に夢魔のフリをしてくるなんて馬鹿。ほとんど下着に近いようなその格好は、襲ってくださいと言わんばかりだった。
「なんで、なんで起きて…!っていうか、夢魔って…!」
「夢魔じゃなかったら誰なの?オレの知ってるナマエはこんなことしないけど?」
わざと意地悪く耳元で囁いてやると、びくりと彼女の肩が跳ねる。
幼馴染みの枠から抜けたいからって、いきなりやること大胆すぎ。ヒソカにからかわれたって気づいてないのかな。
オレの問いかけに彼女はどもる。抱きしめた身体が熱い。暗くてよく見えないけれど、きっと真っ赤になっているんだろう。
「そういや夢魔の行動はね、あくまで食事であってそこに愛はないんだよ?知ってた?」
「…」
黙り込む彼女の脇腹を指の腹でなぞってみる。
あー我慢するのって結構辛い。据え膳食わぬは、ってどこの国の言葉だっけ。据えられてなくても、オレはずっと食べたかったんだけど。
「そんなニセモノの行為ならオレはやだな。
ま、夢魔の君に言ったって仕方ないか」
「…イルミ」
「なに?」
こんな状況なのに掠れた声で名前を呼んだりするから、本当に苦しい。
それでも平静を装ってオレは首を傾げる。
「私、夢魔じゃないよ」
「うん」
「だからニセモノは…私もいや」
今更意を決したように好きです、と告白する彼女の唇を、返事の代わりに強引に奪って。
ぐるり、と身体を回転させて彼女を自分の下にした。
「ヒソカに、男は皆夢魔が好きだって言われたんだろ」
「う、うん。そうだけど…」
「オレはそんなニセモノの夢魔よりナマエの方が嬉しかったよ」
優しくしてあげたいけど、先に誘ってきたのはそっちだからね。
繋いだ手の指を絡めて、シーツに縫い付けるように押さえ込んだ。
「ちょ、イルミ!?」
「今更やめるなんて無し」
「待って、でも、」
「ホンモノならいいでしょ」
オレも好きだったんだよ、と囁くと彼女は大人しくなる。その代わり、恥ずかしそうに目を伏せた。
「…夢じゃないよね?」
「それはオレが言いたいよ」
目が覚めて何もかも夢だったとしたら、今度はオレが夢魔役やろうかな。
また意地悪を言ってみたら、バカ、と怒られた。
End
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