- ナノ -

■ 3.暇つぶし

初めて乗ったハンター協会の飛行船は思っていたよりも大きく、正直お金の無駄遣いなのではないかと思った。
メンバーにしても行先にしても誰も行きたがらないせいで、結局視察に向かうのは私とパリストンのみ。どうせ二人なら公共交通機関を用いたほうが安上がりだっただろうに、よりにもよって彼は協会内でも大きめの船を選んだ。

「視察と言っても立派な外交ですからね。それなりの物でいかないと」

「舐められるってことですね。これなら十二支んの会合に出席する方が、よほど気楽だったんじゃないですか?」

私だったら十二支んを選ぶ。どうせ皆パリストンのことを嫌がっているのだし、あの会合に出たってそれなりに面白いはずだ。けれども彼はふふっ、と笑うと相変わらず人を小馬鹿にしたような態度で肩をすくめた。

「遊んでくれそうな人が来ないんだから、行っても仕方ありませんよ。
それならこうしてトレイアさんと過ごしている方がよほど楽しいですね」

「ジンさんも変な奴に目を付けられてお可哀想に」

別に船内は馬鹿みたいに広いのだから一緒にいる必要はなかった。けれども一人でいるのも暇なので、暇するくらいならこうしてパリストンに嫌味を言っている方が楽しい。
どうやらそれは相手も同じなようで、彼は一際いい笑顔を浮かべるとこう言った。

「あ、そうだ、知ってます?
協会内で僕とトレイアさんって噂になってるんですよ」

「あれ、自分が嫌われているってご存知なかったんですか?」

「違いますよ、そうじゃなくて僕たちが男女の仲だっていう噂です」

そんなのとっくに知っていた。

「へぇ、随分と観察力のない似非ハンターがいるもんですね」

彼は私が動揺するのを見たかったに違いないが、生憎そんな根も葉もない噂に踊らされるほどお子様でもない。おおかた、私とパリストンがよく喋っているからそんな発想が出たのだろう。
嫌われ者同士お似合い、ということで上手く片付けてしまおうとしたに違いなかった。

「そうですかねぇ、僕はなかなかいい観察眼だと思いますよ。
ほら、僕達って似たもの同士ですし」

「同族嫌悪という言葉があるのはご存知ですか?
だいたい本当に何もないんだから、やっぱり観察力に欠けてます」

「おや、似たもの同士っていうのは否定しないんですか?」

「それは前々から思っていましたよ」

だからこそ、と私は笑った。

「こうして副会長と喋ってあげてるんじゃないですか」

自分に似ているからこそちょっかいをかけたときに面白いのだ。それは助かりますね〜、なんて心にもないようなことを言った彼は地上に見える景色に目を細める。

「そういや、NGLでは機械やその他文明の利器の類は一切持ち込み禁止ですよ」

「…面倒ですね、どうしてわざわざこんな場所の視察なんて」

「やだなぁ、こういう場所こそ自分の目で現地を見ないとダメですよ。
僕達二人で有意義な視察にしましょうね、トレイアさん」

「……」

流石に慣れたはずの自分の笑顔も、思わずひきつっているのを感じた。


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