■ 33.抱えた秘密
イルミが電話をかけてきた次の日、どういう風の吹き回しか久しぶりにヒソカがマンションを訪ねてきた。
もちろん彼が本来の所有者なのだから、いつやってこようとも彼の自由。
けれどもイルミとのことがあったばかりだから、今会うのはどうしても気まずかった。
「ごめんねぇ、最近忙しくってなかなか来れなかったよ
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」
「ううん…いいの」
本来ならずっと一人だったので少し人恋しくなった頃でもある。コーヒーでいい?と聞くとヒソカは頷いたので、私はキッチンへと立った。
「アニス、何かあった
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?」
「え」後ろからそう声をかけられ、思わずカップに伸ばした手が止まる。
直接会ってはなくても電話はしていた。だから敏感な兄は私の元気がまたなくなっていることに気が付いたのだろう。
だけどあえてイルミとのことを聞かないでいてくれた彼に、イルミの話をして心配をかけたくない。ましてやまたイルミの家に行くだなんて口が裂けても言えなかった。
「何もないけど」
「そうかい
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?ならいいんだけどね
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」
嘘をつくのは忍びなかったが、正直に話せば止められるだろう。ヒソカに言われるまでもなく自分でも馬鹿なことをしているとわかっていた。
本当にイルミが言ったように殺されるかもしれないのに。
「…あのさ、私、ヒソカに─お兄ちゃんにまた会えてよかったと思ってる」
「へ
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?」
コーヒーを目の前に出し、ぽつりと呟く。まさか私がそんなことを言うとは思わなかったのか、珍しくヒソカは驚いた顔をしていた。
「いや、拷問されたし出会いは散々だったけど、もう一人ぼっちだと思ってたから…」
「…両親のことは
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?」
「それは…私が許していいことかどうかわからないけど。正直、あんまり覚えてないの」
「覚えてない……か
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」
私の言葉をヒソカはやけに真面目な表情で繰り返す。
それからその唇は何かを伝えようとするみたいに動いたが、私にはそれが聞き取れなかった。
─ ミが し だよ
「…アニス、」
「……」
「アニス
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!」
「え…え、なに?」
名前を呼ばれてそこで我に返る。変だな、いくらなんでも会話中にぼうっとするなんて。
ごめん、と謝るとヒソカは曖昧に微笑んだ。
「えっと…何の話だっけ」
「コーヒー冷めちゃうよ
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」
「あ、そうだね」
自分のカップに手を伸ばし、口をつける。
口内に広がった苦味は、淹れたてだったはずなのにもう生ぬるくなっていた。
※
「おや、またあなたですか」
ヒソカが帰った後、アニスは意を決して外出することに決めた。
もちろん向かうはゾルディック家。引越しする前は30分でたどり着けたはずのあの大きな門に、今はたどり着くだけでもかなり時間がかかる。
そしてようやくたどり着けたと思ったら、今度は当然門に阻まれる。アニスの力では開けることなど到底叶わず、また門番のおじさん─ゼブロというらしい─に頼ることになってしまったのだった。
「すみません、何度も何度も。今日は奥様の方にお話があって」
「奥様に?イルミ坊ちゃまからお話は聞いていますが……」
ゼブロさんはそう言って、少々お待ちくださいと電話を手に取る。どうやらイルミは私が門を開けられないのを覚えていたらしい。
自分で話をつける、なんて啖呵を切っておきながら、結局は手伝ってもらわないといけないなんて情けなかった。
「もしもし、ゼブロです。直接お伝えした方が良いとのことでしたので……ええ、そうです、はい。お待ちしております。それでは失礼いたします」
要件だけの手短な会話だが、どうやらイルミは自らこちらに来るらしい。
告白以来、直接顔を会わせるのは初めてだったので、アニスはゼブロと共に待っている間もひたすらに落ち着かなかった。
そして……
「アニス、」
呼ばれた名前に心臓が跳ねる。彼は守衛室に入ってくるなり固まっているこちらの腕を掴むと、強引に門の方へ歩き出した。「行くよ」「ちょっ、イルミ」
片手で軽々と開かれた門。閉まる寸前に振り返って見ればゼブロさんが頭を下げていて。
扉の重みで地面が揺れたような気がした。
「……」
前も来たけれど、広大に広がる森のような庭。
とうとうイルミと二人きりになってしまった。
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