- ナノ -

■ 27.告白と独白

私が突然そんなことを言うものだから、イルミはなんの話だと言わんばかりにこちらを見る。
確かにこちらの心の内を知らない彼にとってはなんの脈絡もない話で、どちらかといえばむしろ迷惑そうにため息をつかれた。

「はぁ…アニスまで母さんみたいなこと言わないでよ」

「いや、でもイルミは恋愛結婚とかしなさそうだし…」

イルミに好きになってもらえる人はきっとすごく幸せ者だろう。少なくともアニスは羨ましかった。ありえないことだろうけれど、一人の人間として、家柄も強さも何もかも関係なく愛してもらえたら……。

だが、恋愛、という言葉にイルミは呆れたように肩をすくめる。「やっぱ兄妹だね」どういう意味で言われているのかわからなかった。

「ヒソカも最近やたらそう言う話したがるし、オレのことがそんなに気になる?」

「…ヒソカも聞いたんだ」

「聞いてきたよ、もっと露骨だけど。アニスのことどう思ってるかってさ」

何気なく発せられた言葉に、心臓がどくんと跳ねた。

普段ならまた余計な!と赤面するところだが、今は違う。私も知りたいと思った。どんなに可能性が無くたってイルミが私のことをどんな風に見ているか知りたい。
強くもないし、家柄も良くないし、特別美人な訳でもない。それでもイルミに惹かれていたから…。

「……気になるよ、イルミのこと」

「え?」

ドレスの膝の辺りを握り閉めて、震える声で言った。運転席に執事がいるなんてことはすっかり頭の中から抜け落ちていた。


「だってイルミのこと、好きだから」


言うだけ言って、怖くて彼の表情は見られなかった。けれどもきっといつもと変わらない無表情なのだろう。
気持ちを伝えてしまったことを後悔したが、もう今更どうしようもない。

高級車はエンジン音も静かなようで気まずい沈黙が車内を流れた。イルミならもっと早く何かしら反応してくれると思ったのに、それだけは少し意外だった。



「へぇ…知らなかった」

やがて、ぽつりと呟くように彼が言う。
でしょうね、なんて返す勇気もなく、私は小さく頷いた。

「参ったな、恋人のフリがまずかったの?」

そしてその一言で迷惑がられているのだと悟った。

「結構アレ助かってるんだけどな、母さんもお見合いとか勧めて来なくなったし」

「……イルミにとっては、ただのごっこだもんね」

イルミは何も悪くないことくらいわかっているのに、思わずそんな非難めいた言葉がこぼれる。「悪いけど、」彼の抑揚のない声からは何の感情も読み取れなかった。

「オレにそういうこと求められてもわからないよ」

「……」

「別にアニスのことは嫌いじゃないけど」「わかってる。わかったから、もういい……」

「そう」

こうなることはわかってた。だから何も落ち込むことはない。これは恋じゃない、単なる憧れだったんだ。恋に恋して、夢を見ていただけなんだ。

涙をこぼさない代わりに、色んな言い訳が頭の中をぐるぐる回った。
でも、どんなに理由をつけたって胸が締め付けられるのまでは誤魔化せない。

その後、再び訪れた沈黙が破られることはなかった。


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