■ 24.疑惑の芽
イルミが無理矢理約束を取り付けてからのアニスは、目に見えて動揺していた。
とりあえずクローゼットの奥からこないだ買ったドレスを引っ張り出し、ベッドの上に広げては困惑する。
「ど、どうしよう……私パーティなんて行ったことない」
「だろうね
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」
「もしダンスとかあったら……」
「あるだろうね
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」
ヒソカがそう言ってトドメをさせば、がっくりと項垂れる彼女。
その様子ではダンスなどからきしのようだった。
「ボクで良ければ教えるけど
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?」
「……」
「きっとこのままだとイルミに恥をかかせることになるだろうねぇ
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下手なダンスじゃ目立って仕事もやりづらいだろうし
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」
黙り込んだアニスにダメ押しするようにそう言えば、あとは陥落するのを待つだけ。基本的イルミもアニスも根っこのところは素直で、損得勘定するタイプだからきっとヒソカに教えてもらうなんて…と思いつつも、仕方なくなれば頼るだろう。
案の定しばしの沈黙の後、非常に不本意そうな顔をして彼女はこちらを見た。
「…やったことあるの?」
「言っておくけどボク上手いよ
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」
「……イルミのためだから…よろしくお願いします…」
ほらね、と思えど最後の言葉は少し面白くなかった。イルミの為になんでアニスがそこまでしなきゃならないのか。
だけどそんな濁った感情を誤魔化すように、ヒソカは彼女に向かって手を出した。
「それではお嬢さん、踊りましょうか
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」
※
「ごめん、足踏んだ」
「いいよ
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アニスに踏まれると興奮するから
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」
「謝って損した」
腰に手を回せば大げさなくらいに体が強張る。いつもは別として今は本当にダンスを教えているだけなのに、一体どこまで信用がないのやら。「ほら、あんまり緊張しないで、練習なんだから
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」「わかってるよ」
顔を近づければ動揺したように目を反らす。こうして近くで見てみるとアニスはやっぱり昔のままのアニスだった。そりゃ確かに大人っぽくなったし、女性としての魅力も十分にある。
けれどもこうやって自分を頼っている時の彼女は、あの頃から何も変わっていなかった。
「懐かしいなぁ、アニスは何でもボクのマネしたがってその度に教えてたもんね
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」
小さいころから手先が器用で、唯一持っていたトランプでたくさん手品を見せてやった。その度にアニスは自分も練習すると言い出して、失敗すれば機嫌を損ねるという始末。ヒソカは懐かしさと少しのからかいの意味を込めてそう笑ったが、彼女は眉ひとつ動かさなかった。
「…アニス
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?」
「…え?なに?」
「聞いてる
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?昔さ、よくこんな風にアニスに物を教えてたねって
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」
「…え?」
彼女の足がぴたりと止まり、慣れたはずのヒソカまで躓きそうになる。
昔話なんて不愉快だからとぼけているのかと思ったが、アニスの表情を見るにそういうわけでもなさそうだった。
「…もしかして、覚えてないの
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?」
「何を?」
「昔のこと
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」
「ヒソカが私を殺そうとしたことなら」
「その前は
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?ずっと何をするにも一緒だっただろ
手品は
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?修業もやったっていうのは?」
ヒソカだって普段は無かったことみたいに振る舞っているが、両親が親として最低な人間だったのもアニスと過ごした日々もすべてちゃんと覚えている。
けれどもまたそこで彼女は固まった。知らない、覚えてない、と口にするわけでもなく、うつろな瞳でぽかんとするだけ。
「…アニス?大丈夫
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?」
「何が?」
「…少し休憩しようか
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」
なんなんだろうこの違和感は。まだ体調が万全じゃないせいか?上手く会話がかみ合わないどころか、昔の話をするとアニスは停止してしまう。
それも故意にやっているわけではなさそうだから、余計に変だと思った。
「ねぇ、じゃあもしかしてなんでボクがアニスを殺そうとしたのかもわかってないのかい
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?」
彼女はまたぼうっとした表情でただこちらを見ていただけだった。
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