■ 21.兄妹といえど
そんなこんなで結局その日、アニスの家には二人が泊まることになったのだが、そうなると当然困るのは寝る場所の問題である。
ゾルディック家の近くという立地の悪さから格安で一軒家を借りているので、家自体は広いのだが当然ベッドは一つしかない。
こうなると普通に考えて家主であり、病人でもあるアニスがベッドに寝るのは当然なのだが…
「じゃあ、ボクとアニスが一緒だね
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」
「嫌に決まってるでしょ」
頭のおかしいピエロ野郎がとんでもないことを言い出したのだ。
「だって、このうちにはベッドかソファーしかないだろ
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ボクとイルミでソファーは物理的に不可能だし、兄妹のボク達なら問題ないじゃないか
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」
「床があるよお兄ちゃん」
「こんな時だけお兄ちゃんって酷いなァ
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」
にやにや笑うヒソカの顔を見てたら、もう胃の中には何もないはずなのにむかむかしてくる。
イルミはどうするつもりなのか、ここは私が折れるべきなのか迷いつつ彼の方へ視線をやると、彼はこちらのことなんかお構いなしで自由に家の中を見て回っていた。
「へぇ、前々からうちの家の近くに小さい『小屋』があるのは知ってたけど、中はこんな風になってたんだね」
「…あのー、イルミ?寝るとこの話してるんだけど」
「オレはヒソカと以外ならどこでもいいよ」
「どこでもって言われても…」
もしかしてイルミって、ただ私の家に泊まってみたかっただけなの?
そりゃあんな城みたいなお屋敷に住んでるイルミからしてみれば、私の家は『小屋』だろう。
そうなるとそんな金持ちお坊ちゃんのどこでもいい、なんて信用できるはずもなかった。
「…うーん、イルミにはベッドで寝てもらう…かな?
でも普段私が使ってるのに寝てもらうのもちょっと…」
一応うら若き乙女なので大丈夫だとは思うが、匂いとか気にならなくもない。どうしたものかな、とまだ少し重い頭で悩んでいたら、隣のヒソカが声をあげた。
「駄目だよ、イルミとなんて
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イルミも男だよ
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?」
「はっ!?な、なに言ってんの、私は別に何も!」
「え、オレとアニスで寝ることになったの?」
「なってない!!」
そ、そんな恥ずかしいこと出来るわけない。そりゃ確かにヒソカと寝るよりかは何十倍も安全そうだが、若い男女が一つのベッドはいくらなんでもまずい。第一こっちの心臓がもたない。
でも一応こんだけ迷惑かけたイルミをソファーに寝かせて自分がベッドってのも忍びないし…うーん。
「決めた。イルミがソファーで、私とヒソカは床に寝よう」
「えっ?なんで床
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」
「も、もてなしの心だよ。兄妹でベッドも嫌だし」
「オレは別にそれでいいけど」
「…アニス大丈夫なのかい
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?」
「え?あ…」ヒソカに言われてようやく思い出したが、そういえば私は病人なのだ。
だが、この案がおそらく最善。どうせ私がベッドでイルミがソファー、ヒソカが床でも、ヒソカなら勝手にベッドに入ってきそうだし。
それなら初めからリビングで三人で寝たほうが、いくらかマシというものだろう。
「平気だよ、でも変なことしたらぶっとばすからね」
「だってさ、イルミ
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」
「クソ兄貴さんに言ってるのよ」こういうことに関してはヒソカはあまり信用していない。
牽制の意味でじろりと横目で睨んだが、彼の方は全く意に介した様子はなかった。
「でもお泊まり会みたいでワクワクするねぇ
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トランプなら持ってるよ、ボク
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」
「いつも持ってるだろ」
「そうだ、恋バナしようか
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」
「ヒソカキモい」
やけに楽しそうなヒソカと相変わらず冷めてるイルミ。結局なんだか良くわからないことになってしまったな、とアニスは1人ため息をついた。
それにしても恋バナ、かぁ……。
今まで生活のためじゃない、まともな恋なんてしたことなかったけど、この気持ちは本物なのかな。
イルミのことが好き。そう胸の内で呟いてみたら、恥ずかしくて胸が苦しくなった。「…アニス?」不意に名前を呼ばれて顔を上げればかち合う視線。鼓動が早まる。
っていうか、本当にくらくらしてきた…あれ?あれれ?これもしかして毒…
「ちょっ、アニス
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?大丈夫かい
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?」
「やっぱりまだ駄目みたいだね」
「んー……」
そこから先のことはあまりよく覚えていない。ただその日の深夜私は恋バナをする余裕すらもなく、高熱を出して夜通しうなされることとなった。
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