- ナノ -

■ 20.兄貴スキル

「...へ?」

どうやら毒は脳みそにまで回っているらしい。
イルミの言ったことが理解できなくて首を捻ると、瞬間鈍い痛みがこめかみに走る。あ、やっぱり毒だ。
そしてどうやらこの毒は耳から入ってきた情報を、とんでもない内容に解釈してしまっているらしい。

私がそんな状態で否定も肯定もしないでいると、代わりにヒソカが「駄目だよ」そう言ってようやく私を床から起こしてくれた。

「イルミはどこかその辺にでも泊まりなって

「別にいいけどそれなら死んでも責任取らないよ?夜中に急に心停止したって知らないから」

「………じゃあ、解毒剤を渡してくれたらいいじゃないか

「耐性付けるための食事だったんだから用意してないよ」

「じゃあイルミがいたって結局どうしようもないだろ

どちらも声は荒らげないものの、早口だから苛立っているのがわかる。こっちはこの上なく体調が悪いのに、至近距離でそんな不穏なオーラに当てられたらたまらなかった。

「ちょ……無理」吐きそう。

でもここで吐くのは乙女として何としてでも避けたい。青ざめる私にイルミは冷静なままだった。

「とりあえず、胃の中のもの全部出して。ヒソカがやれるってんなら、ぼうっとしてないで吐かせてきて」

「え

「お前兄貴だろ。オレは弟たちの全部やってきたけど?抵抗するようなら、指を喉の奥に突っ込んだり鳩尾に軽く衝撃を与えて。ほら早く」

「わ、わかったよ

動けないのをいい事に、ヒソカに抱えられトイレまで連行される。「待って…一人でできるから!」イルミにやってもらうよりかは何百倍もマシだけれど、それでもやっぱり吐くところなんて誰にも見られたくない。
第一、私は子供じゃないんだし。

「あ、吐く時に自分の吐瀉物で窒息しないようにね」

「背中さすってあげようか?」

「う、うるさい!」

例え善意に溢れてようと、こいつらのデリカシーの無さが大嫌いだ!





「これでわかっただろ?ヒソカの兄貴としてのスキルはその程度なんだって」

ようやく胃の中を空っぽにできた私は、この時点で既にぐったりとしていた。
ゾルディックの人間は普段からこれの何十倍の量の毒を摂取しているのか。なんて恐ろしい。
同じ夕食の後だというのにイルミは全く毒による影響を受けていないようで、むしろヒソカの方がどこか元気がなかった。

「……嫌われてるくせに

「え、何?聞こえない。言えるもんならもういっぺん言ってみろよ」

「……
でもイルミの家は全員弟だろ妹とは違うよ

「そんなの大差ないよ」

いや、あるだろと内心でツッコんだのはさておき、全員男、のフレーズに引っ掛かる。「え」不意に声を上げた私に、図らずとも二人の視線が集まった。

「カルトちゃん、じゃなくてカルトくん?」

「そうだけど?」

「うそ…女の子だと思ってた…!」

そういや確かに僕、って言ってたような気がする。しかしそれにしても流石にイルミの弟だけあって、女の子みたいに綺麗な顔してるなぁと感心していたら、それ見たことかとイルミは眉をあげた。

「だから弟でも妹でも変わらないだろ。
頼りないヒソカだけじゃアニス死ぬよ?」

多少強引であるが、イルミが強引なのは元からである。
どうやら今日彼が泊まっていくのは決定事項みたいで、私の意見などお構いなしみたいだった。
まぁ、こちらも命がかかっているから偉そうには言えない。ヒソカはというと、イルミに「兄貴スキルがない」と言われてショックを受けたのか、いつになく難しい顔をしていた。
そして、神妙な雰囲気でぽつりと一言。

「…わかったよ、じゃあ今夜は3人だね

何しれっと自分も数のうちに入れてるの。

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