- ナノ -

■ 19.懲りないひと

目が覚めると……って、私いつの間に寝たんだっけ。

起き上がろうとしたが、体が思うように動かない。デジャビュ?と馬鹿なことを考えたが、既視感どころ本当に二回目なのだ。
命があっただけ感謝すべきだろう。遅効性の毒なんて性格が悪いと思えど、文句を言える立場にはない。

けれども前回とひとつ違うのは、ここがイルミの部屋ではなく、自分の家だということだった。

「何言ってるんだい、キミ?ふざけるのも大概にしてくれよ

「感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはないね」

まだぼんやりとする意識だが、隣のリビングが何やら騒がしい。私は確か一人暮らしのはずなんだけれど。

無理に起きようとして、ベッドから落ちた。今回は止めてくれる人もおらず、落ちようとして落ちたわけじゃないだけに痛い。
物音で私が目覚めたことに気がついたのか、がちゃりと寝室のドアが開けられた。

「アニス、起きたんだね心配したんだよ
まったく、案の定酷い目にあってるんだから……

「人ん家の夕食食べといて酷い目とか言わないでくれる?」

「キミの家は普通じゃないだろ

当たり前のように我が家にいるヒソカとイルミに、毒だけではない疲れがどっと押し寄せる。
とはいえイルミの方はきっと、ここまで私を運んでくれたに違いなかった。

「……私、また倒れたの?」

「うん」

「よく家がわかったわね…」

距離的にはイルミの家の門から三十分だが、パドキアに家を借りたことまでは伝えていない。
知らない間に近くに引っ越してて、気持ち悪いと思われただろうか。それは嫌だ。

「その気になればすぐに調べられるしね。まぁ、思いがけず近くてびっくりしたけど、面倒じゃなくてよかった」

「毒で苦しんでるのに面倒って酷くないかい?」

「うるさいな、勝手に入ってきたんだろ。生きてただけ感謝しなよ」

イルミの言うことは至極正論だが、ちょっぴり悲しいのも事実。
またも少し落ち込んでいたら、ヒソカがふん、と鼻を鳴らした。

「で、そこは百歩譲って感謝するとしてさ
イルミまで別に泊まらなくていいんじゃないかい?」

「仕方ないだろ、母さんは恋人だって思ってるんだから付いておけって」

「アニスのことはボクが見てるよ

「はぁ……お前に毒の知識ないだろ」

おそらくこの手のやりとりは私が寝ている間に既に何度も行われたのだろう。ため息をついたイルミはもはや苛立ちを通り越して呆れているみたいで、話がわからないながらに同情する。

「母さんがアニスとまたお茶会したいって言うから、死なれても困るんだよ。
このまま帰ったらどうしたのって問い詰められるし、かといって今からパドキアでホテル取るのも自宅の傍で野宿するのも馬鹿げてるし」

ね、だからさ、とイルミは依然として床に転がったままの私を見下ろすようにして言った。

「今日は泊めてよ」



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