■ 17.天然タラシ
「あのさ、誤解してるようだけど」
当然アニスが投げた枕をさっとかわしたイルミは「オレ、お前の妹に手を出してないから」電話の向こうのヒソカに向かってゆっくりと言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「じゃあ今の悲鳴は
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?」
「それはお前の卑猥な発言に対して。っていうか、そんなに疑うなら本当にヤッてやろうか?」「わぁああぁあ!!」「うるさい」
イルミまでとんでもない発言をするからパニックになって叫ぶと、本当に嫌そうな顔をして叱られた。普段が無表情なだけにそう露骨に眉根を寄せられると、なんだか竦んでしまう。
っていうかこいつら、本人を目の前にして何デリカシーない話してるのよ!
「イルミ、キミがそのつもりならボクだってキミの弟を放っては置かないよ
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」
「ふぅん、冗談も通じないわけ?」
「イルミが冗談言うのかい
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?」
「たまにはね」
何やら不穏な空気を醸し出し始めた二人に、アニスはどうしていいかわからなくなる。とにかく背伸びしてイルミの手から携帯を奪うと、ぶちっと強引に電話を切った。
「お、お母さんが呼んでるんでしょ」
「あ、そうそう。オレはそのためにここに来たんだよ」
本当に今思い出したのか、ぽん、と手を打つイルミに力が抜ける。さっきの問題発言はやっぱりただの冗談なのか。
あんな真顔で過激な冗談言わないでよ、紛らわしい…。
「時間的にさ、母さんがアニスもご飯食べてけって」
「…紅茶ですら駄目だったのに?」
「駄目だったからじゃない?」
「なるほど私に死ねと…」
先程までは息子に春が来た!と大歓迎されていたのに、やっぱり紅茶ぐらいで倒れるような女じゃ愛想も尽かされるか。
特殊な家だから無理もないけれど、イルミと釣り合わないと言外に言われる現実に、ちくりと胸が傷んだ。
「死ぬかどうかはアニス次第だと思うけど。恋人なら毒にも慣れてもらわないと困るってさ」
「こ、恋人…!」
「あれ、忘れたの?前にそういうことになってただろ」
もちろん忘れているわけが無い。けれどもこうやって改めて恋人だなんて言われたら落ち着かない気分になる。イルミのこといいな、って思っているだけに。
けれども彼はそんなこちらの気もしらず、おもむろに私の額に手を当てた。
「もう熱もないね」「な、な…!」
熱もない、と言われたそばから羞恥で体がかっと熱くなる。イルミの手はひんやりと冷たく、それに僅かに身を強ばらせていると、空いた方の手で手を握られる。「うん、手先の感覚もあるみたいだし問題無いかな」
この人は天然タラシなんじゃないかと思った。
「まぁそんなに強い毒は入れないと思うけど、死なないでね。
ヒソカにごちゃごちゃ言われるの嫌だからさ」
「う、うん……」
毒は嫌だし苦しいけれど、こんなに優しくしてもらえるならもう一回くらいぶっ倒れてもいいかな、なんて不覚にも思ってしまった。
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