■ 16.知られたくない
次に目が覚めたとき、イルミは部屋にいなかった。
どのくらい眠っていたのかわからず、気だるい体を起こせばベッドサイドに置かれた自分の携帯が視界に入る。
緑色のランプがちかちかと点滅し、誰かからの連絡が入っているようだった。
「今、何時…?」
ぱっと見、この部屋に時計は見当たらない。
時間を確認するのも兼ねて、私は携帯に手を伸ばす。不在者着信を見ると知らない番号だったが、とりあえずかけ直してみた。
「…もしもし?」
最近はイルミを追いかけてるせいで、カモにしていた男達を放置気味だったからそのうちの誰かかもしれない。
電話帳登録すらなおざりにしていた、誰か。
「もしもし、アニス
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?家に帰らないでどこにいるんだい
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?」
「……」
名前を聞かずとも、独特の口調と声ですぐにわかる。携帯番号なんて教えてなかったのに。なんで。
だが、いつもはただ鬱陶しいだけの兄の声が、夢の中の兄と被って聞こえた。
「何回電話をかけても出ないし…もしもしアニス
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?ちゃんと聞いてるかい
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?」
「…お兄ちゃん」
「え……
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」
そこには特別な意味も含まれていないし理由もない。
口から自然に溢れたその呼び名にヒソカが言葉を失う頃、私はようやく恥ずかしいことをしてしまったと気がついた。
「い、今の無し!」
「どうしてだい
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?嬉しいよアニス、ようやくそう呼んでくれるようになったんだね
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」
「違う!これはその、寝ぼけて…」
昔の夢を見ただなんて、とてもじゃないが言えなかった。それに本当に寝起きだったし。
けれども『寝てた』と言う言葉を聞くなり、嬉しそうだったヒソカの声の調子はガラリと変わった。
「どこで、寝てたの
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?誰と?だって、家にいないだろ
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」
「なんで家に居ないって知って…」「それはボクが今アニスの家にいるからさ
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」
悪びれもせず堂々と不法侵入を告白した兄に、ため息しか出てこない。携帯番号を教えていないくらいだから、もちろん家の鍵も渡していないのだ。
玄関とか壊してないでしょうね、と文句を言おうとした矢先「アニス、」部屋の扉が開いた。
「やっぱり起きてた。あのさ、母さんが呼んでるんだけど」
「え、あ…」
明らかに電話中なのは見ればわかると思うのに、部屋に入ってきたイルミは当たり前のように私に話しかけてくる。「もしかしてまだ動けない?」参ったな、と全然参ってない顔で彼は言った。
「いや、動けるけど」「もしもしアニス
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?」
「そ。だったら早くして」
両方から一度に話しかけられ、私は慌てふためく。けれども目の前のイルミよりも、電話の先の兄の方が一際大きい声を出した。
「その声はイルミ
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?待って、アニスはイルミと一緒にいるのかい
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?」
「そ、そうだけど…」
電話口から聞こえてきた声にイルミの方も電話の相手が誰かわかったらしく、珍しく眉をひそめる。代わって、とヒソカがいつになく怒った調子で言ったので、私は素直に彼に携帯を差し出した。
「はぁ…一番知られたくない奴にバレた。面倒」
「イルミ、ボク前にアニスだけはやめてって言ったよね?」
胡散臭い口調は何処へやら、何やら真剣な様子に思わず息を殺す。
イルミはというとまたそれか、と言いたそうにため息をついた。
「オレのせいみたいに言わないでくれる?勝手に彼女の方が来たんだから」
「へぇ、イルミにも据え膳食わぬはの精神あったんだねぇ。人の妹に動けないくらいヤッた気分はどうだい」
「は?何のこと?」「わぁぁあ!」
イルミよりも先に意味の分かった私は恥ずかしさのあまり、思わず近くにあった枕を投げつけた。
しかも何にも悪くない彼に向かって。
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