■ 14.こころくばり
そういや家に帰るのは久しぶりだな、なんて思いながら、イルミはもはや我が家の顔とも言える試しの門に片手をつく。
力試しならともかくも、ただ出入りするためだけにエネルギーを使うのは馬鹿げているので、本当に最低限の力で門を開いた。いや、開こうとした、その時。
「イルミ様」「……何?」
さっきから、やけにじろじろと視線を感じるな、と思っていたら。
えっと、名前はなんだっけ。門番のこの男。
いつも出入りする度に見かけるのだが、生憎ちゃんと名前を認識したことも、話しかけられたこともない。
だからこそ、今回は余程のことなのか、と少し不思議に思いながら用件を聞いた。
「本日、イルミ様のお知り合いの方がお越しになったのですが…」
「知り合い?ヒソカ?」
「いえ、女性の方ですが、カルト様と中に入られてそのまま出てきておられないのです。出過ぎた真似とはわかりつつも少し心配に…」
女性、と言われて余計に分からなくなった。
誰だろう。わざわざ家まで押し掛けてくるほどの知り合いはヒソカくらいだったし、そもそも女の場合、知り合いで生きている方が珍しい。
しかもカルトが入れたとなれば面識があった……と考えて、イルミにはたった一人だけ頭に思い浮かぶ女がいた。
「あーなんとなく誰かわかったような気がする」
「では、本当にお知り合いの方だったんですね」
「知り合いと言えばそうだね。で、まだ出てきてないんだ?」
「そうです。カルト様もご存知のようでしたのでお止めしなかったのですが」
「問題ないよ、通しても。どうせミケにすら勝てないんじゃないかな」
「はぁ…」
てっきり、門番として防犯的な意味合いで心配しているのかと思ったが、どうにも腑に落ちなさそうに男は了解致しました、と頷いた。
イルミはそれを見るとそのまま扉に力を入れ、敷地内へと足を進める。
夜の森だからかミケだけでなく、他の生き物達の息遣いもやけに間近に感じられた。
しかし、それにしても厄介だな。カルトもどうして入れたりしたんだろう。
また迷子になってなきゃいいけれど。
門番の反応には拍子抜けしたくせに、防犯的な意味合いとは別に心配している自分。
その事実にイルミはまだこの時気がついていなかった。
※
「まぁまぁまぁイル!!帰ってたのねぇ!!」
「うん、今ね。
それよりアニスが来てるって聞いたけど?」
母さんの長い話が始まる前に、まず自分の用件を言う。それがもうイルミの長年の癖みたいなものになっていて、屋敷へと帰るなり所在を確認すべきアニスの名前を口にした。
「それがねぇ、イル、あの方本当に大丈夫なの??」
「え?」
「うちの森で迷ってたらしくてね、こちらに辿り着いた頃には酷い状態で、お紅茶を差し上げたら倒れられてしまったのよ」
「倒れた?それって、」
かなりまずくない?
そもそも酷い状態の相手に振舞うべきは紅茶ではないと思うが、まずうちの食事には全て毒が入っている。
倒れたとはつまりそういうことで、こんなに呑気に会話してていいものだろうか。
「今どこ?っていうか生きてる?」
「たぶん生きてるんじゃないかしら、貴方の部屋に寝かせておいたわ」
「なんでオレの部屋」
「だって、貴方達恋人同士でしょう??」
「あー……うん。そうだったね」
仕方がない。どうせ自分の部屋には戻るし、少し様子を見てみるか。
イルミはため息をつきたいのをぐっと我慢して、代わりにもしもアニスが死んでいたらヒソカになんて説明しようかな、と頭を悩ませた。
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