■ 12.お買い物
デンドラ地区はパドキアの中でも観光名所で、そのため色んな国から色んな人間が訪れる。それこそ肌の色や髪のいろもまちまちで、ピエロルックでなければ隣のクソ兄貴の赤い髪も目立たないだろう。
そう思っていたけれど実際目立つのは髪の色だけではなく、アニスは周りの視線に深いため息をついた。
「いつもこうなの?」
「ん?あぁ、視線のこと
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?
そうだね、見られたくないときは絶をしてるかなぁ
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」
「じゃ、しようよ。イルミだってこんな堂々と歩いてていいの?」
「むやみに絶をするより、街でなら一般人みたくオーラを垂れ流してるほうが自然だからね」
外へ出てみて初めて気づいたのだが、三人で並んで歩くと注目されて仕方がない。
アニス自体別に小柄な方ではないのだが、さすがに両隣を180越えの男二人に挟まれると落ち着かないし、なにより悔しいことに二人の容姿は整っている。
街ゆく女性たちの羨望と嫉妬のまなざしが煩わしかった。
「ねぇ、結局どこ行くの?」
早くこの拷問から解放されたいと思って、迷う素振りなく歩き続けるイルミにそう問う。
足が長いからか歩くのが早くて、ついていくだけでも一苦労だ。お洒落してヒールの高い靴なんて履かなきゃよかった。
「うん、さっき母さんに電話して聞いたんだけど、パドキアにもそういうパーティドレスの店あるらしいよ」
「へぇ、イルミにしては準備いいじゃないか
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」
「仕事だからね。手近なところで済ませたかったし」
仕事だから、と強調するのは別に照れ隠しとかそういうわけではないらしい。
やがてたどり着いた店を見て、アニスは思わず隣のヒソカに囁いた。
「ここ、高級そうな感じがすごいんだけど...」
正直こんな店入ったことがない。もともとそれほど服や装飾品の類には興味がないので、お金はあまりかけていなかった。
「まぁ、イルミだからねぇ
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大丈夫、可愛いアニスのためならボクが買ってあげるよ
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」
「…」
本来ならありがとう、というべきなんだろうがなんとなく言いたくない。
というかイルミにも依頼料払うらしいし、いつの間にこんなに金持ちになったんだろう。ろくなことして稼いでないのは想像つくけど。
まぁアニスも貢いでもらったりしているわけだから、よく考えたらここにいる三人とも真っ当じゃないなと思った。
「さ、イルミ選んであげてよ
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」
「うーん、じゃこれ」
イルミが指差したのは、店に入ってすぐのところにある真っ赤なドレス。店員がこちらに声をかけてくるよりも早く選ばれたそれは、インスピレーションとかいう域すら超えていて。
流石のヒソカも少しムッとしたようだった。
「ちょっと、いくらなんでも適当すぎやしないかい
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」
「えーだって、どれ着たって大して変わり映えしないだろ」
「仕事はきちんとするのがキミのウチの良いところじゃないか
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」
「はぁ、仕方ないな…」
はっきり言ってため息つきたいのはこっちなんですけど。
どれ着たって変わり映えしないとか、思ってても言わないでよ…。
もはや女に興味ないとかそんなんじゃなくて、常識的なところからツッコみたい。
なんでこんな奴好きだなんて思ったんだろう…やっぱ勘違いなのかな。
またもや一人でぐるぐる考えているうちに、店内をうろうろとしたイルミがこれは?と声をあげる。値札も一切確認せず、ひょいと手渡された今度のドレスは深い緑色の落ち着きあるものだった。
「試着しなよ」
「えっ!?」
「似合ってるかどうか、見るから」
「に、に、似合ってるか、どうか...」
すかさず追いついてきた店員が、こちらですと試着室に向かって案内する。
買い物の際の試着に抵抗はないけど、いきなりイルミにドレス姿を見せるの?
なんだかとても恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
とはいえここで断れるわけもない。せっかく選んでもらったドレスだしとアニスは言われるままに試着室へといざなわれ、更衣を済ませた。
「…どうかな?」
緊張しつつもカーテンを開けると、その瞬間に眩しい光に目を射抜かれる。
何事かととっさに身構えれば何のことはない。ヒソカが携帯でカシャカシャ写真を撮っているのだ。
「ちょ、何撮って…」「ふーん、ま、そんなものじゃない?」
撮影に忙しいヒソカは無視して、イルミは冷静に評価し始める。
サマになってるよ、とおそらく褒められ、アニスはへどもどしてしまった。
「うん、とっても似合ってるよアニス
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」
「じゃ、今日の依頼はこれで」
私がいいとも言わない内に勝手に話は進んでいく。お会計はもちろんヒソカが払うわけだが。
「じゃ、それ着て仕事頑張ってね」
「え、あ、ありがとう」
雰囲気冷たそうだから、こういうさりげない一言にはドキッとさせられるんだけどなぁ。
結局、いい人なのか悪い人なのかますますわからなくなる。
店を出て彼とは別れた帰り道、アニスはうーんと悩んでいた。
「ほらね、イルミってわりとゲスだろ
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女心がわかってないというかさ…やめといたら
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?目が覚めたかい
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?」
「うるさい。なんで着いてきてるのクソ兄貴」
そうでなくても悩んでいるのに、これ以上悩みを増やさないで欲しい。
アニスは一気に歩調を早めたが、当然ヒソカを引き離せるわけもなかった。
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