■ 11.良いところ
「ハニートラップ?
え、アニスってそんな仕事してたの?もしかして同業?」
それまでまったく興味なさそうだったイルミが、その言葉に僅かに反応する。
確かに男を騙す詐欺的なことはしたことがあるが、イルミの指す同業とは暗殺のことだろう。
アニスは流石に人殺しはしたことがなかったので焦ったが、ヒソカはしれっと嘘をついていた。
「まぁ、専門ってわけじゃないけどね
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似たようなものかな
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」
「ふーん」
これだから変化系は嫌い。彼に近づくためには嘘も方便かもしれないけれど、流石にこの嘘はどう収拾をつけたらいいのかわからない。
嘘を嘘でなくするためには真実にするしかないから、責任取ってこのクソ兄貴に鍛えてもらうしか…。
あぁもう、嘘つきだって思われたくないからなんとか帳尻合わせなきゃ。
「だから今日の依頼はね、キミにアニスのドレスを選んで欲しいってことなんだよ
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」
「えーオレが?やだよめんどくさい」
「お金払うんだからいいじゃないか
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」
ヒソカの言葉にイルミはうーん、と悩む。
っていうか、依頼って本当に依頼なんだ?友達なのに金銭絡むとかかなりシビアだな。
ゾルディック家恐るべし。
アニスはどうか引き受けてくれますように、と祈りながら、ストローで氷をつつくことしかできなかった。
「ま、いいや。わかったよ。
だけどドレスのことならオレより母さんに頼んだほうがいいと思うんだけど」
「いやいや、男目線の意見を聞きたいんだよ
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相手はキミみたいな、女に興味なさそうな男でさ
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」
「誤解を招くような言い方しないでよ」
イルミは文句を言いつつもどうやら引き受けてくれるらしい。
女に興味なさそうな、というフレーズに内心ドキリせずにはいられなかった。
「あ、あの、ちなみに…好きな女性のタイプとかって…?」
泊まってもスルーだったのは私に原因があるんじゃなくて、彼が色恋に興味ないから?
それだと嬉しいけどまた難易度が上がる。彼は一体どんな女の人なら素敵だって思うんだろう。
私の質問に隣の兄は少し強めにグラスを机に置いたが、それどころではなかったのでシカトした。
「え?タイプ?
タイプね…強いて言うなら煩くないのがいいかな」
「う、煩くないの…?」
「うん、ベタベタされるのとか嫌だし、邪魔にならなくて尚且つ役に立てばいいんじゃない?」
「キミ、それ彼女って言うより奴隷だよ
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」
いつもは茶々いれないでよ、と煩わしく思うが、今回ばかりはヒソカの意見に同意する。
彼はそうかもね、とまた興味無さそうに言ったが、その様子から冗談ではないのだとわかってゾクリとした。
なんだ……本当に結構なゲスじゃん。 私、この人のどこが気になってたんだろう。
やっぱり、好きってわけじゃないのかな…。
考え出すとわからない。
でも、好きになるからには絶対それなりの理由ってものがあるはずなのに…。
「どうしたんだい?難しい顔して
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」
「ん…いや、考え事」
ヒソカは私の反応を楽しむように口角をあげた。
その眼はほら、イルミってこんな奴だよと言いたそうで、それが余計に腹立たしい。
「で、本当に行くの?行かないの?」
「い、行くよもちろん」
「そ。じゃ早くして」
残ったアイスコーヒーもそのままに立ち上がるイルミ。
アニスも慌てて立ち上がり、悠長にしている兄を急かした。
「ほら早く」
「いいんだよ
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会計しなきゃいけないしね
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」
当たり前のように店を出ていく彼と当たり前のように3人分支払っている兄を見て、アニスはなんだかわけがわからなくなった。
二人は友達じゃないの?っていうか、ヒソカのほうが紳士?
…まさか、ね。
とにかく今はせっかく彼といるんだし、余計なことは考えないでおこう。
頑張ってイルミのいいところを探すんだ。
そうじゃないと好きだなんておかしいから。
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