■ 10.お邪魔虫
ゾルディック家があることからパドキアに物騒なイメージを抱いていたが、案外そんなことはないらしい。
平和そうな街並みを横目に、少し経営の傾いていそうな喫茶店にて人を待つ。
アニスは視界にちらつく赤色の髪に、思わず舌打ちしそうになった。
「で、なんでいるの、クソ兄貴」
普段よりちょっとだけお洒落して、待ち合わせ場所には30分前に着いていた。別に緊張してたとかそんなのじゃなくて、やっぱり相手は忙しい人だから遅刻は厳禁だし。
それなのにいざ店に着いてみると私よりも先にヒソカが座っていて、それを見た瞬間引き返そうかと思った。まだあのピエロルックじゃないのがせめてもの救いだけれど。
「イルミには仕事ってことで呼び出したからね。
だいたいいきなり二人きりになんかさせるわけが無いだろう
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」
「だからって来るの早いし」
「たまたま時間があったからさ
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」
絶対嘘だ。こいつが嘘つきであることを差し引いても嘘に決まってる。
こんなことなら早めに来るんじゃなかったと後悔しつつ、アニスはただひたすら約束の時間になるのを待っていた。
「あれ、アニスもいるの?」
待ち合わせ時刻ぴったり。
喫茶店のドアですらほとんど音を立てないなんてどういう技術なんだと思いつつ、颯爽と長い髪をなびかせて現れた彼に心臓が忙しく働き始める。
どうやら彼はヒソカとの仕事としか聞いていなかったらしく、こちらを見るなり首を傾げた。
「人の妹を呼び捨てするのはやめてよ
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」
「だったらどう呼べばいいのさ」
「呼び捨てでいいよ!」
早くもつっかかるような態度に、アニスはテーブルの下でヒソカの足を蹴る。
拷問されておいて「さん付け」で呼び合うのも変な気分だし、むしろ自然に名前を呼ばれたことのほうが嬉しかった。
思わず彼がアイスコーヒーを頼むその横顔にも見とれてしまう
「イ、イルミの私服初めて見た。似合うね…」
初めても何も、そもそも会うのは二度目だ。だけど動揺しているアニスはそんな簡単なことにも気づかない。
「そう?」無地のグレイのジャケットにすらりと長い脚を際立たせるような細身の黒パンツを履いたイルミは特別お洒落というほどの個性はないものの、いつもの個性的すぎる服よりはるかにかっこよかった。
「ヒソカが私服でって指定してきたからね。で、仕事ってなに?」
しかし彼は服の話題にさして興味がないようで、それこそお洒落している目の前のアニスはスルー。
いや、いいのだ。女性の服をさらりと褒められるような、そんなたらしスキルは求めてないから。そんなベタベタしたのは隣の道化だけで十分だ。悲しくなんかない。
すると道化はそんなアニスの心を見透かしたかのようにこちらを一瞥すると、いきなりイルミに向かってとんでもない質問を向けた。
「ね、イルミ。キミはアニスのことどう思う
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?」
「は!?」
待て待ていくらなんでもそれは直球すぎやしないか。
だいたいまだお互いのことよく知らないのにどうってそんな…恥ずかしすぎる!
アニスは立ち上がりかけて、危うくコーヒーを持ってきた店員とぶつかるところだった。
「どうって?」
「気にしないで気にしないで!このピエロのいうことなんて聞いちゃダメ!!」
「ちょっとアニス、これは仕事の話なんだよ
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イルミはアニスのこの格好どう思う
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?」
焦るこちらとは裏腹に、涼しい顔で運ばれてきたコーヒーを一口。
お洒落はしてきたつもりだけど、改めて聞かれると赤面するのを抑えられなかった。
「どうって、別に。
そんなものじゃない?」
「可愛いと思うかい
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?」なに聞いてくれてちゃってるのクソピエロ、ありがとう!
「うーん、オレあんまりそういうの興味ないからさ。
なにこれ雑談?仕事と関係あるの?」
人の服装を雑談で片付けたイルミに、少しも悪びれる様子はない。
それどころかむしろ面倒くさそうに眉を寄せた。
「実はさ、今度アニスがハニートラップの仕事をするんだけど、その時のドレスをキミに選んで欲しいんだよね
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」
「え?」
ちなみに今の「え」はアニスだ。
私の方も兄がイルミに仕事の依頼をしたのは知っていたが、その内容までは知らなかった。
予期せぬ話に面食らう。
けれども動揺する私をよそに、話はどんどんと進んでいったのだった。
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