■ 7.気づきたくない
ちょうど時間でいうなら昼を過ぎた頃か。
飛行船で次の仕事先に向かっていたイルミは、鳴った携帯を見てようやく念が解けたのかと思った。
「もしもし、ヒソカ。思い出したんなら約束の口座」「イルミ、アニスは
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?」
自分がヒソカの長ったらしい話を遮ることはよくあっても、向こうに遮られることは珍しい。
イルミは少しムッとしつつも、帰したよと言った。
「帰した?帰ったじゃなくて
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?」
「あー、うん。昨日オレが仕事を終えて帰ったらまだうちに居てさ。迷子とかで泊まってったんだよね」
「と、泊まった
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!?」
やけにヒソカが焦った声を出すから、なんだかこちらも驚いた。
お前ってそんなキャラだっけ?
そう軽口を叩こうとしたら、それよりも早くまたオレの言葉は遮られる。
「変なことしてないだろうね
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!?」
「は?するわけないだろ。昨日からなんでオレそんな信用ないわけ?」
アニスといいヒソカといい、オレをなんだと思ってるの。
悪いけど行きずりの、それも知り合いの女に手を出すほど困ってない。
ヒソカじゃあるまいし、と嫌味を言ってみたけれど、綺麗にスルーされた。ムカつく。
「今どこ
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?」
「今は仕事先に向かってる。ちょうどヨルビアン王国上空」
「イルミじゃないよ、アニスが今どこか聞いてるんだよ
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」
「だから帰したって。とりあえずうち出てパドキアに降ろしたけど」
人に散々ブラコンブラコン言ってたけど、ヒソカだって大概じゃないか。
昔殺したはずの妹?聞いて呆れるね。
イルミはだんだん面倒くさくなってきて、早々に電話を切ろうとした。
「ま、なんでもいいから約束の口座に入金よろしくね。オレは忙しいからこれで」
「わかったよ
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」
後はどうなろうがお金さえ貰えればオレには関係ない。
だけどあの調子なら、しばらくヒソカは青い果実よりも妹のストーカーでも始めるんだろうな、と思った。
そしてそれに巻き込まれたくないな、と心の底から思った。
※※
「すみません、パドキアで住むところを探してるんですけど」
「一人暮らしですか?」
「あ、はい。そうです」
パドキア共和国デントラ地区。
アニスは生まれて初めて不動産屋というところに来ていた。
大きな声では言えないが、今まではこの操作系の念を悪用して生活していたため、定住というものをしたことがなかったのだ。
幼い頃にいきなり天涯孤独になり、当然生活に困る。
アニスは自分に近づいてくる適当な男の家に転がり込んでは操作して身の安全を守り、今まで転々と暮らしてきた。
だから今回も…
─泊まれば?
そんなことを言われて、思い切り警戒してしまった。利用しておいてこういうのもなんだが、近づいてくる男は大抵下心がある。
だからこそ大して罪悪感を感じることなく操作出来たわけだが、絶対に気を許してはならない相手であったことも確かだ。
そのため同じようにアニスは昨日、なかなか眠れなかった。
今回は自分の念のこともある程度知られているし、相手も実力者。
何があってもいいように神経を研ぎ澄ませていたのだが……
気がつくと無防備に眠りこけていた。
というか、シャワーから出てきたイルミはこちらに見向きもせずさっさと眠ってしまったのだ。
本当に暗殺者なの?と思うくらい、他人が部屋にいようがお構いなし。
あまりに何もされないものだから、アニスもついつい眠ってしまっていた。
…意外と紳士じゃん。
目覚めて一番最初に思ったのはそんなこと。
なんだか自分に魅力がない、って言われたみたいで面白くない気持ちにもなったがとてもほっとした。
そして同時に今までとは違う男の人と言う意味で、強く興味を惹かれた。
だから、
「できればすぐに住めるところがいいです」
この地にちょこっとだけ住んでみようと思った。
別にイルミがどうのこうのというわけじゃない。ただちょっと気になっただけ。ゾルディックっていう伝説じみた暗殺一家ってとこも面白いし。
「何かこだわりの点などございましたらお伺いしますが」
「いや、特にこだわらないので」
とりあえず雨風がしのげて、眠れたらそれでいいだろう。
基本的にずっと貧乏暮らしだったし、贅沢は言わない方だ。
そりゃ、シャワーとかトイレは共用じゃない方がいいけれど…と考えたところでアニスは「あ」と声を上げる。
「すみません、えっとこだわらないって言ったんですが一つだけ。
観光名所とかが近い方がいいです。例えば……」
ゾルディック家とか。
そう言うと不動産屋のお姉さんは引き攣った笑みを浮かべたが、いい物件があると教えてくれた。わざわざそんなところに住みたがる物好きは少ないらしい。そりゃそうだろう。
私だってこんな、自分の興味を惹いたものをとことん知りたいなんて厄介な性格じゃなきゃ、そんな危険そうな所には住みたいと思わない。
今回はそれがゾルディック家。
別にイルミが気になるとかそんなのじゃない。
たぶん。
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