■ 5.募る想い
「ありがとうヒソカ」
「えっ!?あれで上手く行ったのかい
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!?」
珍しくイルミの方から飲みに誘ってきたから、てっきり先日の苦情をこんこんと語られるのかと思っていた。
もちろん、だからと言って誘いを断るヒソカではない。こうなることは予めわかっていて、それでも面白そうだったからイルミを焚き付けたのだ。
けれどもいざ待ち合わせのバーに行ってみると、イルミは怒るどころかなんと礼を言ってきた。あまりに予想外な出来事に、明日ボクは死ぬのかもしれないと、そんな馬鹿な覚悟をしたくらいだ。
「うん、トレアもオレのこと大好きだったってわかったし安心した」
「…あれで口説ける君の彼女ってどうなの
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」
「さぁ、でも最終的にはまどろっこしくなくて助かったよ」
「むしろ原始的すぎる口説き文句だからね…
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」
イルミの恋人をやってるだけあって、彼女の方もどうやら相当の変わり者らしい。強くはなさそうだったからちょっかいかけなかったけど、そんなに変な子なら興味が湧いてきたな。「っ!痛いなぁイルミ
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」「今トレアのこと考えただろ」
彼女のことになるとエスパー並の能力を発揮したイルミは、変形させた爪を元に戻した。
そしてこちらを見て、飲まないの?と首を傾げる。
「今日はオレが奢るよ」
「……明日ボク死ぬかも
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」
「何それ、今度はどんな婉曲表現?
ま、本当に死んでもらっても構わないんだけど」
あはは、と無表情のまま声だけ笑ったイルミは怖いくらいに上機嫌だ。
かたり、と目の前に問答無用で差し出されたのはこの高級バーでもとびきりのお値段のお酒。
ヒソカしばらく連絡取るのやめようかな、と悩みつつ、あまり味わう余裕もなくそれを嚥下した。
※
「好きだよトレア」
今日はいつものスプラッター映画もかかってない。これは後から聞いた話だけれど、彼女はオレのためにグロ耐性をつけようとして見続けていたらしい。
ますます可愛い。相変わらず照れたり怒ったりすると、鳩尾を攻撃してくるのは変わらないけれど。
「私もイルミのこと好き」
恥ずかしそうに動いた唇に、たまらなくなって口づけを落とす。言葉で伝えなきゃとは思うんだけど、どうしても体が先に行動してしまっている。
それでももう彼女はくすり、と微笑んだだけだった。
「婉曲表現は苦手だけどさ、実はオレ、トレアがたまに『好き』以外の言葉で言ってくれるやつ好きなんだよね」
「え?そんなこと言ってるっけ?」
「言ってるよ。あれ言われると胸がきゅって締め付けられる。で、トレアを滅茶苦茶にしたくなる」
イルミじゃなきゃ駄目だとか、私より一秒でも長生きして欲しいとか。
イルミと一緒にいるだけで幸せだとか。
オレもそんな言葉をかけてあげられれば一番いいのだろうけれど、生憎想いを上手く言葉に出来ない。
これでも頭は悪くない筈なんだけどな。
「いいよ、もう。
イルミが不器用なの知ってるし。
……そこも好きだし」
「今のもう一回言って」
「やだよ!」
「じゃあオレが言うね、トレアのことが好き」
何十回でも何百回でもオレは好きだって言うよ。
だって何度言っても気持ちはすり減るどころかますます募っていくから。
私もだよという、言葉を期待して好きだ好きだと言い続ければ、トレアは頬を赤く染め、そしてそれを隠すようにオレの肩に額を寄せた。
「焦らなくても私の一生分の『好き』は全部イルミにあげるよ」
だからそう言う事を言われると、我慢できなくなっちゃうんだってば。
オレの胸を苦しくさせる彼女の言葉はまさにデッドボールだ。当たったら最後、彼女のことしか考えられなくなってしまう。
鳩尾への攻撃に備えながら、彼女を押し倒して覆い被さった。「好き」そんな馬鹿の一つ覚えみたいに同じ言葉を繰り返すオレを許して。
やがて彼女の腕がオレの背中へと回って、許可が出た。
そうなったらもう、婉曲になんかやらないし言葉も要らない。
ここから先はオレのターンだ。
End
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