■ 4.災い転じて
「クロロは全然使い物にならなかった。
というわけで一応お前にも聞いてみようと思うんだけど、正直期待してない」
「聞く前から酷いなぁ
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」
事の発端とそれからクロロのアイディアの結果をざっと話終え、さぁ次はお前の番だとばかりに肘をつく。
からかわれそうでヒソカにはあまり言いたくなかったのだけれど、背に腹は代えられない。実はもう軽く3週間以上は彼女に触れていないのだ。
もちろん、仕事が忙しくてそもそも会えていないというのも大きいのだが、だからこそ次で決めたい。
ヒソカは普段から歯の浮くような台詞を平気で言うし、わりと女を口説くには慣れているだろう。
「ほら、早く考えろよ」
「うーん、婉曲表現ねぇ…
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ボクも口説く時は結構ストレートに言っちゃうから
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」
「そう?ヒソカってまどろっこしい言い方してそうなのに」
「オブラートには包むよ
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例えばね、うん。これなんてどうだいイルミ
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」
気持ち悪いけど手招きするから顔を寄せる。
その言葉を耳打ちされて鳥肌が立ったが、きっとそれは相手がヒソカだからなのだろう。
確かに婉曲と言えば婉曲で、なによりイルミの需要をちゃんと満たしていた。
「ほんとに…こんなので大丈夫なの?」
「そんなこと言って、結構乗り気なくせにさぁ
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物は試しだよ、一体何が彼女のお気に召すかわからないじゃないか
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」
「まぁ…そうだけど」
ヒソカの言う通り、オレにはトレアが望む回答がさっぱりわからない。だから当てに行こうとすれば、どうしても数での勝負になってしまう。
「頑張ってね
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」
ひらひらと手を振るヒソカに見送られ、オレは彼女の家へと向かった。
※
「イルミ、久しぶりだね」
「うん、長期の仕事だったから」
彼女の部屋を訪れて、いつも真っ先にするのは他の男の影がないか探すこと。
別に疑ってるわけじゃない。ただ、トレアが可愛すぎるから、変なストーカーとかが潜んでいたりしても困る。
前にあんまりにも心配だから隠しカメラと盗聴器を設置したら「イルミがストーカーだよ」と呆気なく破壊されたのだった。
「会いたかったよ」
「…まぁ、私も。ちょっと寂しかったかな」
ご飯食べる?と聞いた彼女に、オレは頷いた。今日はいつになく素直だからいけるかも。
やっぱり長期不在だったのが大きいのかな。
台所に立った彼女に後ろから抱きついて、首筋に顔を埋めた。
「動きにくいよ、イルミ」「ねぇ、ご飯もいいけどさ」
ヒソカの台詞はここが使い時かな。うん、たぶん今のトレアなら大丈夫。さっき寂しかったって言ってたし。
回した腕を引いて彼女の腰をだき寄せ、オレは耳元で甘く囁いた。
「トレアと合体したいな」
「はぁ!?」
オレの脳内予想では(妄想とも言う)トレアはこの言葉に顔を赤らめるはずだった。
そして恥ずかしそうにしながらも、料理の手を止める。後はベッドに連れ込むだけでOK。
けれども大声を出した彼女は顔を赤らめるどころか、ぴしりと表情を強ばらせた。しかも肘鉄を鳩尾に入れてくるというオマケつきで。
「痛いよトレア」
「イルミが変なこと言うからでしょ」
「嫌なの?久々に会ったのに。
ずっとトレアに触れてなかったから溜まってるんだよね」
包丁くらい大した武器ではないけれど、危ないからこっちに向けないでよ。
それにしても鳩尾攻撃多いな…。
トレアは咄嗟に彼女から離れたオレを白い目で睨みつけた。
「……よくわかったわ、イルミの好きだよってそういう事だったのね」
「え?」
「最っ低!体だけなら他所へ行って!」
がちゃん、と大きな音を立てて包丁を流しに放り投げると、トレアはばっ、と駆け出し自室のドアを閉めてしまった。
火にかかりっぱなしの鍋が、カタカタと蓋を浮かして泡を吹きこぼす。
「トレア、違うよ。ここ開けて」
「うるさい帰ってよイルミの馬鹿」
内側から鍵をかけているのかと思ったが、どうやら中でドアを背に押しているらしい。
力づくで壊そうかと思ったけれど、すぐそこにトレアがいるのでは危なくてそういうわけにもいかなかった。
「…前々から思ってたんだよ。
イルミは好き好き言ってくれるけど、とりあえずそう言っとけば私が喜ぶからじゃないかって。だからわざと反応しないようにしてたのに!」
「そうだったの?」
「やっぱり体目当てだったんだ。
私はそんなものなくても、イルミが傍に居てくれるだけで幸せだったのに、イルミは、」「違う!」
押したら彼女が危ないから、逆に思い切りドアを引いた。
蝶番がぐにゃりと歪んで、バランスを崩したトレアがドアごとこちらに倒れ込んでくる。
「違うよ、それは違う」
もちろんトレアの体も好きだけど、顔も中身も笑顔も仕草も声も何もかも好きだよ。
オレの「好き」という言葉がすり減ったって言われても、「好き」以外に当てはまる言葉が無いんだ。 トレアを前にすると、その感情で頭も胸も一杯になるんだよ。
まだ寝転がったままの彼女に、次々と溢れてくる言葉をぶつけた。びっくりしたように目を見張るその目もとは、きらりと涙で光っていた。
「トレアはオレの言葉が聴きたいって言ったよね?
だったらやっぱりこれしかないよ。
『好きだよトレア』」
婉曲にぼやかしたり誤魔化したり出来ないくらい好き。
たった二文字の言葉じゃ少ないように感じるけれど、そこに込められてる想いの密度は誰にも負けないつもりだ。
「…イルミの馬鹿っ」
すると泣き笑いのような表情を浮かべて、彼女はこう言った。
「私もイルミのこと大好きだよ」
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