- ナノ -

■ 1.直球ストレートは聞き飽きた

思ったことをそのまま口にして、何が悪いんだろう。

オレはトレアのことが好きで好きで仕方がない。
だから言う。いつも言う。
これは決して惰性で言っているんじゃなくて、本当に思うから。思った時に思ったままの言葉を発した結果がたまたまそうだっただけ。

「トレア、好きだよ」
「飽きた」
「えっ」

せっかくの休みだというのに彼女はオレそっちのけでDVDを見ていて。
これがまたラブロマンスならいい雰囲気にもなろうが、よりにもよってスプラッター映画で。
仕事で見慣れているからグロいとは思わないものの、あんまりプライベートでまで見たいと思わない。

だから無言で殺戮シーンに見入る彼女の気を引こうとして、彼女の髪を手で梳いて囁いた。

それなのに。

「…飽きたって、なに」

「そのまんまの意味だよ。もう聞き飽きた。
いつも会うたびに言ってくるよね」

トレアは言うなり、ぴっ、とテレビを消してこちらに向き直る。
その目も口元も全く笑っていなくて、どうやら冗談なんかではないらしい。

そしてマンネリなの、と続けた彼女を、オレは瞬きをして見つめることしかできなかった。

「同じ好き、を伝えるにしたって他にも言葉があるでしょ。
言葉はね、使う度にすり減ってくの。イルミの『好き』は使い古されたの。
だからぜーんぜんドキドキしない」

「そうだったの?」

オレの想いはすり減るどころかどんどん増してってるのに。
あぁでも、だから最近好きだって言っても無視されるのか。
うん、とかそう、とか返事が帰ってきたらまだいい方。私もだよ、なんてものは夢のまた夢で。

「じゃあ、愛してる?」

「浅い、浅いよ。
イルミのボキャブラリーはその程度なの?」

「トレアしか見えない」

「その目力を半減させてから言いなさい」

「だったら、」どうしたらいいんだよ。

仕事で女を口説くことはあっても、手早く済ませたいからこそ婉曲な物言いはしない。
二人きりになるよう誘導して、ちょっと押し倒して首筋にでもキスしてやれば、それだけで後は言葉をかける間もなくお仕事完了となる。ここからは針の出番だ。

オレが少しムッとしながら彼女に具体例を聞くと、女に聞いても仕方ないでしょと言われた。

「とにかく、これから『好き』や『愛してる』は禁止ね。
私はイルミのなりの言葉が聞きたいの。
他の奴じゃなくて、イルミじゃなきゃ駄目なの。わかる?」

「…」

彼女の言ってることは無茶苦茶だし横暴だ。だけどなんだか今の言葉はよかった。
別に好き、って言われた訳じゃないのに胸が苦しくなる。

「オレじゃないと、駄目なんだね…」


だったらオレはなんだってするよ。
きっとトレアのためなら、出来ないことなんてない。



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