■ 7.やる時はやる
「では自己紹介をどうぞ」
「32番、エレナ=ゾル…いえ、エスターニャです」
面接は初めこそ緊張したものの、仕事の時の緊張感に比べればなんてことはない。
それどころかこうして着実に夢に近づいているのだと思うと、舞い上がってしまう。
少しの質疑応答、それから自己アピールも滞りなく終えたエレナはいよいよ歌の評価という段階に来ていた。
「エレナさんは、声がとても綺麗だね」
「え、そ、そうですか?ありがとうございます」
「面接の時から思ってました。期待してますよ」
「はい!」
褒められて嬉しさがじわじわこみ上げてくる。やっぱり多少無理してでも挑戦してみてよかった。
受かるかどうかは別としても、やってみることが大事なのだから。
エレナはすう、と深呼吸すると気合を入れた。
私はやる時はやるタイプだ。
※
「何かあったのかい
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?」
「…別に」
さらっと仕事を片付けたあと、飲みに行かないかと誘ったらいつも以上の勢いで断られた。
確かにいつもツレない態度ではあるが、どうも今日は仕事の時から様子がおかしい。
聞いてみるとそんな素っ気ない返事しか返ってこなかったが、何かあったのは間違いなかった。
普段から無表情で感情を悟られないようにしている分、嘘をつくのが下手なのだ。
「そんなこと言って、何かあったんだろう
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」
「…お前には関係ないだろ」
「また弟くんかい
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?
あ、そういやキミ結婚してたよね
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上手くいってないの?」
イルミが何かを気にすると言えば、それは九分九厘家のこと。
飲みに行けないならついでに乗せてよ、と無理やり乗り込んだ私用船の中で質問を繰り返すと、案の定わかりやすいイルミは結婚という言葉に僅かに眉をしかめた。
「あ、上手くいってないんだ
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」
「上手くいくとかいかないとか、よくわからない」
「喧嘩したの
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?奥さんまだ若かったよね
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」
「17」
そう、確かどこぞの暗殺一家のお嬢さんで。
イルミが選んだわけでもなく、親同士の話し合いで決まった結婚。
若くしてこんな偏屈なイルミに娶されたその少女のことを思うと、なんだか少し憐れな気もした。
「キミも大人げないな
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まだ相手は子供みたいなものじゃないか
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」
「…精神年齢は間違いなくそうだね。でも油断してたらやる時はやってくれるから」
「え、なに、イルミが下ネタ言うって珍しいね
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」
「誰がそんなこと言った?」
ヤるとはてっきりそっちの話だとばかり。
一気に不機嫌度を上げたイルミに、ヒソカは首をすくめて見せた。
「じゃあ、一体何されたんだい
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?」
「…」
「そこまで言って言わないなんて気になるじゃないか
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なんだったらボクにも協力できるかもしれないよ
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キミ、女心とかわからないだろ
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」
イルミは頭はいいけれど、人の心の機微には疎い。そのくせ行動の理由に拘ったりするからタチが悪いのだ。
だから、一体奥さんが何をしたかは知らないが彼女の行動の理由を知りたいと思っているに違いなかった。
「ま、キミがどうしても話したくないって言うなら、無理にとは言わないけどね
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」
つまり、ヒソカはイルミの性格を逆手に取ったのだった。
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