■ 4.失敗
「なに、言ってみなよ。オレのどこに不満があるわけ?」
「え、えっとねまずは…『2位、暴力をふるう』」
「人聞きの悪いこと言わないでくれる?それは訓練だから」
だいたい、2位ってなんだ2位って。
しかも、電話の向こうで紙をめくるようなパラパラという音がする。
「それから『3位、生活費を渡さない』…ことはないね、うん。『4位、精神的に虐待する』あ、これ!これだよイルミこれこれ!」
「ねぇ、一体なんの雑誌読んでるのエレナ」
「ちなみに『8位、異常性格』」
「喧嘩売ってる?」
オレは一般的な離婚理由を知りたいのではなく、エレナがなぜ突然、しかもこんな形で出ていったかだ。
曲がりなりにも半年間夫婦として生活してきて、特に不自由させた記憶もない。
きっともうとっくに探知できるくらいの時間は喋っているとは思うけれど、会話するに連れて怒りはますます増幅していく。
「エレナ、今ならまだ笑い話で済ませてあげるから戻っておいで」
「イルミの笑い話とか怖すぎなんだけど」
「あんまりふざけてたら怒るよ」
「…あのね、イルミさん。私が出ていったからには私の方が先にあなたに対して怒っているのですよわかりますかね?」
エレナが怒ってる?
それは完全に予想外の言葉だった。
「何が気に入らないの」
「言ったでしょ、私は歌手になるんだって」
歌手、の言葉にイルミは思わずため息をつく。
なんだ、大したことじゃないか。これじゃただの子供の家出と変わらない。本気で離婚届を出しているので子供だから、で笑って済ませられるレベルではないが。
しかし、イルミのため息にエレナが気を悪くしたのは間違いない。
イルミが再び説得しようとして口を開いた瞬間、「じゃあね、お世話になりました」ぷちりと電話が切られる。
「…イル兄、一体どういうことなんだよ」
逆探知のために隣で聞いているミルキに今更隠しだてはできない。
イルミはあえて何でもないことのように振舞った。
「馬鹿が逃げ出した。オレに黙って離婚届を出してね」
「えっ!?」
「母さんに言ったら殺すから。バレる前に早くエレナの居場所見つけ出して。
もう時間は十分稼いだだろ」
帰ってきたら一体どうしてやろうか。
だいたい歌手になりたいって何夢みたいなこと言っているんだろう。暗殺者が目立ってどうするつもりなのさ。
「あー、イル兄……非常に言いにくいんだけどさ」
「なに?」
「固定電話じゃなくて携帯電話からなら、逆探知しても基地局から大まかな場所を推定するくらいのことしかできねぇと思うんだ……」
「……」
今から私用船を飛ばして間に合うか。
イルミは小さく舌打ちすると、内線を使って執事邸に連絡を入れる。
「もしもしオレだけど。大至急、船出せるようにしておいて」
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