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■ 番外編5 エレナの羞恥

一応街中だからか普通に道を歩いてきたイルミの姿に、激しい違和感と恐怖を感じる。
はっきり言って説明してほしいのはエレナの方であって、思わず隣のヒソカさんを仰ぎ見た。

「うん、彼がボクの友達

「え…え?
…ええっ!?」

あのイルミに友達!?というところはひとまず置いておいたとしても、そうなるとヒソカさんは私を騙していたことになる。
私がイルミの奥さんと分かって近づいていたのだとしたら…

「ちょっと待って、じゃああの日タイミングよくイルミが迎えに来たのってもしかして盗聴してたの!?」

「ピンポーン、よくわかったね。ま、盗撮もしてたんだけど」

「うわ…うわー最低!」

聞かれてたんだ、と思うと体がかっと熱くなった。だって、あの時私は悪口だけじゃなくてイルミへの想いも仄めかしていたんだもの。恥ずかしいし、嵌められたことにも腹が立つ。
じゃあイルミは迎えに来た時、ハナから勝ち戦状態だったんだ。

「っていうかそんなことより、エレナのこれ浮気じゃないの?」「わっ!?」

ぐい、と腕を掴まれて、人目があるのにそのままイルミの腕の中にダイブする形になる。
慌てて離れようともがいたが、がっちりとホールドされていて抜け出せなかった。

「なんでアイス食べただけで浮気なのよ!」

「オレ以外の男と一緒にいた」

「基準を見直した方がいいよ!」

個人的には盗撮、盗聴の件を『そんなこと』で片付けてほしくなかったが、とにかく今は離れたい。街中で抱き合ってるせいで皆に見られている。しかもイルミもヒソカさんも私服じゃないから、私まで変に思われそうだ。

「うーん、アツアツだねぇ

「エレナに変なことしてないよね?してたら殺すけど」

「変なことしてるのはイルミ!離れて離れて」

「こんなの変なことのうちに入らないよ」

見た目は結構細いくせに、押しても全然びくともしない。
それでも恥ずかしさから暴れていると「じゃあエレナはさ、」頭の上から声をかけられ、仕方なく視線を上にやった。

「オレとキスできないの?ここで」

「…はぁ!?」

キス、という単語に頭の中が真っ白になる。
一体どこからそんな話が。それに、抱きしめられてるだけでも恥ずかしいのにキスなんてできるわけ…

「ボクとはしたよね、間接キス」「は?」

「か、間接キスなんてキスじゃないもん!」

ヒソカさんが余計なことを言うから、イルミが本気モードになる。今更だけど、この人紳士なんかじゃなかった。とんでもないエセ野郎だ。

「結局、出来るの出来ないの?」

「や、だって、こんなとこじゃ…」「出来ないの?ねぇ、エレナ出来ないの?」

何がわかろうとする姿勢だ。高圧的なのは全く改善されて無いじゃないか。
エレナは意を決すると、背伸びをしてイルミの頬に口づけた。

「はい!これでいいでしょ!!」
「どうせならここにしてよ」

そう言って自分の唇を指さすイルミに、エレナは恥ずかしくて爆発しそうになる。ヒソカさんが隣でにやにやしてるのが余計に羞恥心を煽った。

「でも、エレナの言いたいことはわかったよ」

ふわり、とホールドが緩んだかと思えば、今度はそのまま抱き上げられる。
お姫様だっこも、キス同様恥ずかしくてエレナは固まってしまった。

「じゃ、エレナは返してもらうから。二度と近づかないでねヒソカ」

「針は?」

「捨てておいてって言っただろ」

じゃ、とイルミはまた涼しい顔でククルーマウンテンの方角へと足を進める。
言いたいことがわかったって何?
私の言いたいことがイルミにわかるわけない。そんなに簡単にわかってくれるなら、今までこんな苦労しなかったもの。

「イルミ、ちょ、降ろして!」

「駄目だよ、エレナの気持ちはわかってるってば」

「何言ってんの?」

「だから、続きはベッドの中でだよね」「……は!?」

どうやら本格的に別居を考えた方が良さそうだ。
「はーなーしーてー!」「なんで?なにが不満なの?」「全然わかってない!」

誰が何と言おうとも。
どっちが悪くて喧嘩しようとも。

最終的に大事なのは相手を思いやることだ。
だからね、イルミ

「もっと私を労わってよ!」


End

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