■ 番外編4 イルミの憤慨
ようやく母さんに一通り事情を説明して、長い長い話から解放されてほっとしていると着信を知らせる携帯。
エレナからかな、と思って相手を確認すると、あまりお呼びではない名前にイルミは少し閉口した。
「やぁ、イル「オレ疲れてるんだよね、何の用?」
これからイルミはまだエレナを探しに出かけなければならないのだ。奇術師の下らない話に付き合っている暇も元気もない。だいたいこいつとはさっきまで一緒に仕事をしていたくらいなのだ。
「相変わらずだなぁ、キミの忘れ物を届けに来たのに
」
「忘れ物?」
「そ、キミにしては珍しく、針を一本落としてたよ
」
「…」
確かに、いつもなら帰宅するなり確認するが今日は生憎母さんに捕まって確認がまだだった。しかし、それにしてもらしくないミスだ。イルミは思わず舌打ちが出そうになる。
八つ当たりとはわかっていつつも、ヒソカに向かって話す声が自然と冷たくなった。
「そう、そんなのわざわざ届けてくれなくたって、気づいたんなら処分してくれればよかったのに」
「キミのためを思って届けに来たのになぁ
」
「ご苦労様、無駄足だったね。話はそれだけ?切るよ」
イルミは例によって例のごとく、自分の都合で無理矢理会話を終わらせようとした。
だが、指が通話終了のボタンを押すギリギリの瞬間に、電話の向こうで聞こえるはずのない声が聞こえた。
「ヒソカさーん、私あれも食べたいです」
「あんまりアイスばっかり食べてるとお腹壊すよ
」
「子供じゃないんですから」
くすくすと笑うその声は、紛れもなくエレナのもの。それに当たり前みたいに返事をしたヒソカはわざとらしくあ、電話中だった、と声をあげた。
「それじゃ、イルミは忙しいみたいだからこれで「ちょっとヒソカ、今の」
「ん?どうかした
?」
どうかした?じゃない。こいつ、一体何を考えてるの。
ヒソカがパドキアにいるということはエレナと出会う可能性も0ではないが、それにしたって今の楽しそうな声は許せない。
イルミはどういうつもり?と不機嫌さを全開にして問い詰めた。
「ボク、キミの忘れ物が一つだなんて言ってないけど
」
「受け取りに行く」
「ボクが貰っておこうか
?」
「受け取りに行くって言ってるだろ。今どこ?」
ヒソカは何がそんなに面白いのかと思うほど、くつくつと喉を鳴らして笑う。
ヒソカもムカつくけどエレナもエレナだよ。
場所を聞き出したイルミは、すぐさま部屋を飛び出した。
※
相変わらずヒソカさんは優しい。
こないだのお礼も兼ねて、アイスくらいはご馳走しようと思ったのに(単純に自分が食べたかったというのもあるが)結局さらっと支払いを済ませてくれている。
先のジェラートを含め、アイス系は通算4個目であったエレナだが、ついついこれを機に行ってみたかったお店を回りたくなって仕方なかった。
「えっとそれで、ヒソカさんのお友達のところに行くんじゃなかったんですか?」
「あぁ、さっき電話したら向こうから受け取りに来るって
エレナが行きたいところに行っても大丈夫だよ
」
「え?じゃあ移動しないほうがよくないですか?」
「ククク、彼ならボク達くらいすぐに見つけるさ
ほら…ね、噂をすればだ
」
ヒソカさんが嬉しそうに笑ったのとほぼ同時に、刺すような殺気。
しかもこの殺気をエレナは知っている。
アイスなんか比じゃないくらいの冷たさだ。
「イル…ミ?」「エレナ、説明してくれる?」
特に悪いことをした覚えはないが、これから問い詰められることだけははっきりと分かった。
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