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■ 番外編3 ヒソカの悪戯

と、いうわけでお義母さまのことはイルミに任せて、エレナは久々の外出を満喫していた。

仲直りして言いたいことやワガママを言えるようになったのは良かったのだけれど、イルミの側の要求もグレードアップしてきて。
最近じゃ外出にも許可がいるしで、まだ若いエレナは面白くない。
イルミも若いはずなのだがいかんせんワーカーホリック的な部分があるし、そもそも外出はあまり好きでないみたい。珍しいオフの日も家にいて、弟の訓練を見たり私にセクハラしたりと大忙しだ。

「さて、どこ行こうかなー。
新しくパドキアに出来たらしいカフェもいいし、確かジェラート専門店もオープンしたって聞いたような...まぁ、まだしばらく時間はあるだろうし満喫しようっと」

それこそイルミは何でも取り寄せろと言うが、その場で迷いながら選んで、雰囲気も味わって食べるというのが大切なのだ。きっと彼には口で説明しても伝わらないだろうし、もう伝わらないことは仕方ないとわかったのだけれど。

エレナはちょっと苦笑すると、気を取り直したように元気に店へと向かった。




「忘れ物、するなんてねぇ...

今日のイルミは全くもってどうかしている。いくら早く帰りたいからと言っても、彼が仕事でミスをするなんて珍しい。
回収し忘れている針を一本指先で弄ぶヒソカは、気まぐれと言う名の好奇心でパドキアまで追いかけてきていた。

別に針の一本くらい、と思うが証拠はできるだけ残さない方がいい。それはイルミの持論で彼はいつもきっちりと使った針まで回収もしくは破壊していた。
それが今日はどうしたことだろう。もしかして、仕事前にかかってきた電話と何か関係あるのだろうか。

イルミが急いで帰らねばならない用事。

それが気になってヒソカはわざわざその日のうちにパドキアまでやって来たのだ。

そして、彼の思ったとおりの光景をその街で見た。


「やぁ

「…え?」

オープンテラスのカフェで、美味しそうにジェラートを味わうその姿。最近会ったばかりだから見間違いようもない。
けれども今のヒソカは奇術師スタイルであるため、エレナの方はまったく誰だかわかっていないようだった。

「エレナ、また家出したのかい?」

「なんで私の名前を…?え?どちら様ですか?」

「うーん、無理もないけどやっぱり傷つくなあ

ヒソカは改めて名乗る。そして、ヒソカとエレナしか知るはずのないあの日の彼女の相談内容も少し。
みるみるうちにエレナの目は丸くなった。

「え!?本当にヒソカさんなんですか!?」

「そうだよ、そんなに違うかい?」

「もしその格好で食事に誘われてたら断ってました。なんか喋り方も変だし」

「手厳しいね…

苦笑しながら彼女の向かいの席に座る。まだにわかには信じられないみたいで、エレナはまじまじとこちらを見つめてきた。

「でも、まさかこんなところでまた会えるなんて。
パドキアには観光ですか?」

「いや、ちょっと友達の忘れ物を届けにねエレナはどうしたんだい?まさかまた喧嘩?」

「いえ、喧嘩したわけじゃないんですけど、ちょっと家がごたついてるので避難してきました」

えへ、と悪びれる様子もなく笑って、エレナはヒソカさんもジェラートどうですか?と首をかしげる。ヒソカは思わず辺りをぐるりと見回した。

「どうしたんですか?」

「なんだか、針が飛んできそうな気がしてね

「はい?」

「ううん、こっちの話だよ

にっこり笑って誤魔化して、エレナの食べかけのジェラートを一口貰う。
もしこんなことをしているのをイルミが見たら、絶対に激怒するだろう。

「そうだせっかくだから友達に会いに行くのに、キミもついて来てくれないかい?」

口の中に広がった爽やかな甘みとは、対照的なまでの企み。
このまま何も知らないエレナと仲良くするのも面白いけれど、やっぱり驚く顔や怒った顔も見てみたい。
エレナはそんなヒソカの思惑には一切気づくことなく、二つ返事で快諾した。

「いいですよー。私もヒソカさんの友達に会ってみたいし」

「じゃ、決まりだね。友達を紹介するよ

ボクの友達も独善的で高圧的で、何でもかんでも人に指図するし、嫌味っぽいし、人を思いやる気持ちに欠けているけれど。

「きっとキミも気に入るさ

なんたって君たちはお似合いの夫婦なんだから。


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