■ 番外編1 母さんの杞憂
「お義母さま、見てください。この服とっても素敵でしょう?」
「まぁまぁ、ほんとに可愛らしいお洋服!!早速着て見せてちょうだい!!」
「ええ、お義母さまもお揃いあるんですよ!」
「まぁ、嬉しい!なんて嬉しい日かしら!!」
キキョウさんと楽しくお茶、となると、大抵お茶はそっちのけになってしまってカップの紅茶は一、二口飲んだだけで冷たくなる。
久しぶりに会えたこともあって、この日エレナ達はかれこれもう5時間もこうしてファッションショーを繰り広げていた。
「そっちの黄色いお洋服も素敵ねぇ!」
「これ、今年の新作なんですよ!可愛いですよね!」
エルメータ王国でちゃっかり買い物していたエレナは、ゾルディック邸へと送っていた荷物を開いてはうっとりする。
また大量に買ってしまったので、どう考えてもクローゼットに収まりきらなかった。
「あぁ、本当にエレナさんが帰ってきてくださってよかったわ!
ワタクシ心配しておりましたのよ!」
「私も、今となっては反省してるんですよね。離婚届をあんなふうにぱーんと出してしまって。
ほんとに勢いだけでしたよ」
「離婚……届?」
「……え?」
今まで緑色にらんらんと輝いていたキキョウさんのスコープが、ちかちかと点滅したかと思うと赤に変わる。
何かまずいことを言ったのだろうか。もしや、私とイルミの間にあったことを知らなかったのか、とエレナは今更ながら焦った。
「ど、ど、どどういうことなのっ!?エレナさんっ!離婚だなんて!!一体何が不満なんですのっ!?イルミね!イルミが何かしたのね!!!」
「え、あ…でも、その」「こんなに素敵なお嫁さんは他にいないわ!!!イルミはちゃんと叱っておかないと!!あの子ったらもう!何にも言わないんですもの!!」
「ちょ、お義母さま!?」
エレナが止めるまもなく執事が呼ばれ、キキョウさんは早速イルミに電話をかける。
仕事中だったらどうするの、と冷や汗をかいたが、彼女は全く気にしていないようだった。
「大変な事になっちゃったな…」
エレナはぽつりと呟くと、この後の展開を予想して避難しよう、と決心した。
※
「仲直りできたようでよかったねぇ
」
「ま、今回ばかりはヒソカも役に立ったんじゃない?」
一応これはイルミなりにお礼を言ったつもりだったのだが。
「……
キミがそういう性格だから、揉めるんだと思うよ
」
ヒソカは溜息をつくとトランプを口元にあて、これから殺戮が行われるであろう屋敷を上から見下ろした。
「ボクはとりあえず大暴れして、護衛の気を引けばいいんだね
?」
「うん。手早くよろしくね。オレ早く帰りたいし」
家に帰ればもうエレナがいる。ここ最近続いていた空っぽの部屋とはおさらばだ。
仕事は別に嫌いではなかったが、今はとにかく早く済ませてエレナに会いたいと思った。
「じゃあ、後で落ちあお…!」
仕事の時はサイレントマナーにしてある携帯。
それでも仕事柄緊急の用事もあるだろうということで、ミルキに改良してもらって特殊なバイブレーション機能を搭載している。
途中で言葉を途切れさせたイルミに、ヒソカは不思議そうな顔をした。
「どうしたんだい
?」
「いや、電話…それも緊急」
「え?中止かい
?」
このタイミングの緊急電話なら、その可能性が最も高い。けれども相手はあの母さん。
マネージメントは基本的にミルキが行っているため、母さんから電話がかかって来るなんてどう考えてもおかしい。
「…出ないのかい
?」
「うーん、嫌な予感がするんだよね」
いつもなら絶対にしないことだけれど、イルミはピッと電話を切る。
もし今出たら大声で叫ばれて、作戦が台無しになってしまうような気がした。
「大丈夫
?」
「いいよ、後でかけるから。早く片付けよう」
「了解
」
イルミとヒソカは強く、それでいて静かに地面を蹴った。
屋敷で悲鳴が上がるまで
あと5秒。
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