■ 22.誰が何と言おうとも
「イルミが裏で細工してたの!?」
「だから何?」
「はー信じられない。最っ低!」
「だいたいなんでまた歌手やろうとしてるわけ?」
仲直りなど束の間の平穏でしかない。
実はエレナは、まだ夢を諦めていなかったらしくて、イルミの知らない間に電脳ネットの動画サイトで自分の歌を流したのだ。
もちろんそれは匿名だし、ミルキが協力したみたいだから安全。謎の歌姫として瞬く間に再生回数が伸び、エレナは自分に自信を取り戻した…と、そこまでは良かったのだが。
どうしてオーディションは駄目だったのだろう、と不思議に思ったエレナに、ミルキがうっかり口を滑らしたのだ。
そしてまた喧嘩勃発である。
「いいじゃん、今度は匿名なんだし!」
「まぁね。でもオレのためだけに歌って、って言ったよね」
「…っ!知らない知らないイルミのバカ!」
別居する!とエレナは宣言して、夫婦の部屋を出ていく。まぁどうせこの家のどこかの部屋を使うつもりなんだろうけど、本当に参ったな。
お互い言いたいことは言おうね、と約束してから喧嘩ばかり。イルミはもともと辛辣すぎるくらい言っていたが、これからはちゃんとエレナへの気持ちも言うようにした。言わなきゃわからないよ、と言われたからだ。
「ねぇ、エレナ。機嫌直しなよ」
「うるさい」
彼女が引きこもった部屋の前で、イルミは声をかける。馬鹿だな、こんなとこに隠れたって意味ないのに。
「オレ、もう仕事行くけど」「勝手に行けば」
「エレナ、愛してるよ」
扉ごしに彼女が息を呑んだのがわかった。そしてイルミがそこで立っていると、ややあってじわりと扉が開けられる。
「…私も…って、え!?ちょ!?」
「可愛い」
扉の隙間に手を突っ込んだイルミは、中からエレナを引きずり出して抱きしめた。
別居なんて認めるはず無いだろ。
「会えなかった分、しっかり愛してあげるから」
誰が何と言おうとも。
どっちが原因で喧嘩しようとも。
性格の不一致なんて大した問題じゃない。
オレ達が幸せならそれでいいじゃないか。
「…早く帰って来てね」
「うん」
「帰ったら、喧嘩の続きね」
「え」
喧嘩出来るうちが花。
そのあと甘い続きもしようね。
End
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