■ 20.理解しようとする姿勢
どうって…。
今更過ぎる質問に、オレは一瞬口ごもる。
そんなの、言わなきゃわからないの?どうしてオレがここまで来たか。
「どうって、オレの妻だよ」
そうじゃなきゃ、認めてなきゃ、こんなところまでわざわざ来ないよ。
だけどエレナはその言葉に表情を険しくしただけ。ヒソカとの会話から、彼女は別にオレのことを嫌いではないのだとわかった。
だから、迎えにさえ行けば、また戻って生きてくれると思ったのに。
「それは…親が決めたからでしょ」
今にも泣き出しそうな顔で、そのくせ怒ったようにエレナは言う。
「そうだけど、でも」「体裁気にしてるんなら、私を殺せば?イルミなら、事故死とかなんだって出来るでしょ」
「エレナ、なに怒ってるの?」
「なんでわからないの?」
なんで、と言われてもわからないものはわからなかった。
エレナが家で寂しい思いをしてたのはわかった。夢だってまだ挑戦したい年頃なんだってこともわかった。
そして今は、帰ったっていいとも思っているんだろう?
それとも何?まさか本当に離婚届出しちゃったから、戻れないと思ってる?
オレはぽん、と手を打つと「あ、離婚届のことなら心配しなくていいよ」と言った。
「あんなものはいくらでもやり直せるからね」
「は?何の話?
イルミってほんとわけわかんない」
「訳がわからないのはこっちなんだけど」
オレはだんだん焦れてきて、彼女の肩を掴んだ。「放して!」「うるさい」
ヒソカにならあんなにべらべら喋ってたくせに。オレにもわかるように言ってよ。
オレだって
「わかろうとは、思ってるんだよ」
仕事が忙しいのもある。弟たちのことでやらなきゃダメなこともある。
エレナは放っておいても大丈夫だと思っていた。だって今までの女みたいに煩わしいことをねだったりしなくて、母さんと楽しんだり一人で買い物に行ったりしてたから。
でも、いなくなってからわかったこともある。
一緒にあんまり過ごしてやれなかったけれど、仕事から帰ってきて部屋に誰もいないと足りないんだ。言葉を交わさなくても、エレナが寝ているその寝顔を見るととても穏やかな気持ちになったんだ。
エレナが自分の傍にいないことが嫌なんだ。
「それに、わかりたいとも思ってる」
エレナはいつだってオレの予想を飛び越えた言動ばかり。
離婚届の件もそうだし、夢の件も。本当なら、もうとっくに音をあげて帰ってきてると思ってた。
でも、現実はそうじゃない。
一生懸命考えても、価値感が違うのか彼女のことは全くわからなかった。
それでも。
「エレナ、戻ってきて。
オレはエレナがいいんだよ」
性格の不一致は致命的なのかもしれない。
性格なんて変えられるものじゃないし、考え方が違えば上手くいかないのかもしれない。
だけど駄目なのかな。わからなくても、わかろうとする努力ならできる。
わかりたいと思う気持ちはちゃんと持ってる。
「エレナこそ、オレのことどう思ってるの?
ホントは嫌いなの?」
彼女の瞳が、大きく揺れた。
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