■ 17.わからない
ヒソカさんはとてもいい人だった。
最初、あんまりにも親切なものだから胡散臭かったけれど、特に怪しい素振りはない。スキンシップも確かにちょくちょくあるものの、下心と言う感じではなくあくまでフランクだった。
イルミと違ってさりげなく行動が紳士だし、高圧的でもないし、うんうんと話を聞いてくれるし…
そう、私はこうやって誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。
ゾルディックのうちでは誰ともこうして会話することなんてなかった。
忙しいシルバさんやゼノさんに下らない話をするのは気が引けるし、そりゃキキョウさんとは好きな服のことや女同士の話で盛り上がれるが、あの人に悩み事や相談できる雰囲気ではない。話せば親身になって聞いてくれるだろうが、ただ黙ってうんうんという感じではないだろう。
義弟くんたちだって訓練で大変そうだし、ミルキはなんだかんだ優しいが歳が近いなりに恥ずかしさもある。
それにまず、イルミのことをその家族に相談できるはずもなかった。
「あの…会ったばっかりでこんなこと言うの、気が引けるんですけど…」
「なんだい?」
「相談というか、悩みと言うか…聞いてもらってもいいですか?」
いっそ、まったく関係のない第三者なら話せる気がした。
ゾルディックと言うことさえ伏せれば、あとは他の家庭とそこまで変わらない気がする。
ご飯までご馳走になってそのうえ相談まで付き合わせるのは若干気が引けたが、今はこうして優しくしてくれるのはヒソカしかいなかった。
「いいよ。話を聞くくらいどうってことないさ
むしろキミに相談してもらえるなんて嬉しいよ」
「ありがとうございます…」
その、話を聞くってことができない人の話なんだけどね…。
※
イルミの奥さんはイルミが言っていたように、本当にまだ子供のようだった。
若さゆえの無鉄砲さももちろん、寄る辺を求めるその不安定さも。
にこにことほほ笑むその様子から、むしろ彼女が暗殺しているところなんて想像できなかった。
「…実はですね、その、私一度離婚していて…」
「へぇ、その若さでかい?」
「ええ、親が決めた結婚だったんですけど…」
ヒソカは目を見開いて、驚いて見せた。何もかも知っている情報だが、あくまで聞いたのはイルミ側からの話ばかり。彼女が自分の結婚についてどう思っているかはわからなかったので、この機に聞き出すのも面白いだろう。
きっと今頃イルミも気になって聞いているはずだし。
「最近、逃げてきたんです。勝手に、離婚届出して」
「…それはまた過激だね。相手はどうしたんだい?」
「すぐに見つかって、戻れと言われました。
だけど私、戻りたくなくて…そしたら彼は戻るまで待つって。
きっと私の気まぐれだと思ったんでしょう」
そこから彼女は自分が逃げ出したわけを話し始めた。
夢のこと、それを彼に相談したこと…。
それに親身なフリをして相槌を打ちながら、ヒソカはなるほどね、と内心頷く。
「気まぐれじゃなかったんです。私は本気だったし今でも本気です。
でも本当に彼の言う通り、私には才能がなかった…」
「じゃあキミはその旦那さんのところに戻るの?」
「それは…」
わかりません、と俯く彼女。
イルミはどうやら彼女が夢のためだけに逃げ出したと思っているみたいだけど、やっぱり根本的な原因はほかにあるらしい。
わからない、というその本音を、イルミはどんな思いで聞いているのだろうか。
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