■ 10.無意識の執着
「それは…イルミが悪いね
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」
「なんで」
「だから言っただろ
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物には言い方ってものがあるって
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」
これでも記憶力は良い方なので、その時の大まかな会話をヒソカにかいつまんで聞かせた。
するとどうだ、ヒソカはどこか憐れむような視線でこちらを見てくるではないか。
「じゃあなんて言えばよかったのさ。
有名になんてなったら困るし、絶対歌手にならせるわけないしね」
「だったらそれだけ言えばよかったんだよ
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需要がないとか、彼女を否定するようなことまで言わなくたっていいじゃないか
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」
「…別に、そんなに大差ないだろ」
「あるよ、大ありだよ
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それがわからなきゃ、確かに性格の不一致って言われても…おっと、危ないなぁ
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」
ヒソカを掠めた針は、とんっ、と壁に突き刺さる。
コイツの口ぶりでは、まるでオレが悪いみたいじゃないか。
「別にわからなくたっていいんだよ、そもそもオレとエレナは政略結婚だからね」
「キミ、彼女の前でもそういうこと言うんだろ
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」
「悪い?ホントのことでしょ」
イルミの言葉にヒソカはやれやれと肩をすくめた。
「その奥さんが可哀想だよ
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」
それだけならまだしも、もう帰ってこないかもねなんて言うから、イルミは思わず舌打ちをした。
「お前に話したけど役に立たないね」
「改善するかどうかはイルミ次第だからさ
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」
「とにかくエレナも、才能ないってわかったら帰ってくるだろ」
「あったらどうするんだい
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?
もうこのまま別れて、彼女の夢を応援してやるのかい
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?」
あるわけないよ、とは言えなかった。
だってオレはエレナのことをよく知らないから。彼女のことは彼女自身の口から聞くよりもむしろ、母さんから聞かされることのほうが多かった気さえする。
思えば彼女の方も今までの婚約者候補みたいにオレに何かを望んだりねだったりしなかった。
自分の夢を語ったあの時くらいかもしれない。
「…才能があっても、潰すから」
「怖いねぇ
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」
「エレナには必要ないよ」
彼女に必要なのは暗殺の技術と、それからオレの妻でいることだ。
不思議と代わりの妻、もっと言うなら何でも言うことを聞く妻をもらうつもりは毛頭なかった。
※
「あー、どうなるかな…」
実際には、このオーディションに受かったところで即デビューできるわけでもないのだ。
芸能界とはそんな甘いものではなく、まずはいろんな下積みや練習から。
イルミには常々考え方が甘いと言われてきたが、エレナだってそこのところくらいは理解している。
「発表は郵送か。だったらホテル宛に送ってもらうしかないよね」
歌の披露が終わった後、審査員の反応はなかなかに良かった。
技術的な面ではやはり素人なのでまだまだだが、何より声質を褒められるのだ。
聞いていて耳に心地いい。練習すればもっと伸びるよ、と言われてエレナは嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
「では、本日のオーディションはこれにて終了です。結果は後日お届けします」
その言葉を合図に、ぞろぞろと人が会場から出ていく。中には残ってボイススクールや養成所の説明を聞く人もいるようだが、エレナの年齢ではどれも親の許可が必要だったりと面倒くさい。
人の流れに乗って自分も帰ろうと思ったら、後ろから声をかけられた。
「エレナさん、ちょっといいですか」
「はい、なんですか?」
ここでは話せない、とその男の人─彼は審査員の一人でエレナの声を褒めてくれた人だ─に連れられ、別の控え室へと案内される。
まさか私は合格なの?
そんな淡い期待を胸に、エレナは彼に着いていった。
「さっきの審査のことなんだけど」
「はい」
「内緒にして欲しいんだが、実はもう僕達の間で結果が出ていてね」
真面目な顔で話す彼に、エレナも自然と緊張する。わざわざ私を呼び出してくれたのはそういうことなの?期待していいの?
エレナは黙って頷くと、言葉の続きを促した。
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