- ナノ -

■ 7.子供染みた

どうせ戦うなら強い人がいい。それも、おかしいくらいに強い奴。

そう思ってウルは手当たり次第に色んな選手の試合を観戦してみたが、どれもいまいちピンと来ない。
チケット屋のお兄さんに誰の試合が人気なのかと問えば何名か教えてくれたが、残念ながら最近は姿を見せていないらしい。
戦闘猶予の期限が切れる頃にはまた戻ってくるだろ、なんて無責任な言葉に苦笑いするしかなかった。

「ここももう出ようかな…」

こんなところにいつまでも留まっていたら息が詰まりそう。
それなら多少危険でももっとスリルのあることをしたい。一種の自暴自棄かもしれない。

その時、ふとウルの脳裏にシルバさんの言葉が浮かんだ。


─蜘蛛には関わるなよ

蜘蛛と言えば幻影旅団。とびきり危険な匂いがプンプンする。
だって彼らは同じ人殺しでも、ゾルディック家の人達みたいに仕事だからという理由だけではない。
それにもしも私がそんなやばい奴らと関わったと知ったら、さすがのイルミだって心配してくれるだろうと思った。

だとしたら、まずは蜘蛛の情報を集めなきゃ。
幸いここは戦闘のメッカだし、強者ぞろいの蜘蛛について何か噂を聞いたことがある人くらいいたっておかしくはないだろう。

ウルの思いつきはここまではよかった。
けれども彼女には致命的なまでの欠点がひとつあって、それはまさしく暗殺以外のことを知らないということだ。

ターゲットの情報は暗殺一家である家が管理していたし、ウルはただその指示通りに殺せば良いだけ。
情報をどうやって集めるかなんてことは全く知らず、おまけにハンターでもないからライセンスを使うこともできない。
ただただ人に聞いて回ることしか思いつかなかった。


そして、

「すみません、蜘蛛についてなにか知りませんか?何でもいいんです、何か知ってることがありましたら是非教えてください!」

「いやぁ、蜘蛛のことなんて俺らに聞かれてもなぁ…んなもん知ってたらとっくに情報売ってるぜ」

「そうですか…ありがとうございます」

しょんぼりと肩を落として、それでもまた馬鹿の一つ覚えのように蜘蛛の情報を聞いて回るウルの存在に、とうとうあの男も気がついた。
実は二週間ほど前にまた天空闘技場へと戻ってきていたのだが、その頃にはウルはもうここで猛者を探すのは諦めていたし、ヒソカもヒソカで200階に満たない闘士はチェックしていなかった。

だが蜘蛛、と言うワードに興味が引かれないわけがない。それも明らかに頭の軽そうな荒くれもの達が探しているのなら賞金狙いか、と捨て置くのだが、相手はまだ成人もしていなさそうな少女。
訳ありかと思えど別に彼女から憎しみは感じられないし、それどころかむしろ綺麗で真っ直ぐな瞳をしていた。

「蜘蛛を探しているのかい?」

「あ、そうなんで…す、はい」

声をかけると振り返った彼女は目を丸くした。たぶん、この格好に驚いたのだろう。
ヒソカを知るここの者は彼女に憐れみの視線を送ったが、もちろんそんなことに彼女が気づくはずもない。

「どうして探しているんだい?」

そもそもこんな原始的なやり方で、本気で探しているのかすら怪しいけれど。
彼女は少し気まずそうに頬をかくと、戦ってみたいんです、と言った。

「戦ってみたい?キミが?」

「小さい頃から関わるなって言われてたから…だから戦ってみたくて」

「...」

なんだその理由は。まるで子供じゃないか。

けれどもヒソカだって団長と戦いたくて蜘蛛に入ったのだ。人の事を言えた義理ではない。
少し考え込んだヒソカに、彼女は至って真面目な顔をして何か知っているなら教えてください、と頭を下げた。

「キミ、強いの?」

「あ、今はオーラをわざと垂れ流してるので」

「…素直だね嫌いじゃないよ、そういう子

念が使えるのか。隠しているのなら相当上手い。
これならちょっとは期待できるかもしれない。
ヒソカは彼女を上から下まで眺めたが、彼女は別に嫌そうな顔もしなかった。

「貴方も強そうですよね、この際貴方でもいいです」

「ボクでもいい?」

「戦ってください、私と」

彼女のその言葉に、周りの空気がぴしりと固まった。


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