■ 5.決意と現実
初めてイルミに会ったのは、確かウルが4つのときだったと思う。
あまり記憶は定かではないのだけれど、私も彼もその時母親の着せ替え人形にされていた。
なんでもどこかのパーティーで顔を合わせた奥様と服の事で意気投合したら、実はそれがゾルディック家の奥様だったらしくて。
うちが小さいなりにも同業者だと知ると、家に招かれるようになったのだった。
「大変だね、お互い」
初めて彼が言ったのは確かそんな感じのこと。というか、実際彼がしゃべるまで私は彼のことを女だと思っていて、綺麗なお姉ちゃんだなぁと憧れていたくらいだ。
そして一通り着せ替え遊びが終わって母親たちがお茶をしている間、私達はよく一緒に遊んだ。
とはいえ年の差もあるしでほとんど遊んでもらっていたようなもの。体を鍛えるのに役立つように、いつだってあの広い敷地を走り回っていた。
だから私にとって彼は初めてのお友達で
「イルミだいすき」
初恋の人だった。
ウルは家を飛び出して行くあてもなく夜の街をうろうろしていた。
ゾルディック家との縁談を断ることには当然家族も大反対。激怒されたかと思うと今度は宥めすかしたり泣きつかれたりと散々だった。
そしてもう誰とも結婚する気がないのだと告げると、両親は真っ青になってしまった。
ほんとに、親不孝もいいとこだと思う。一人娘なのに跡を継ぐわけでもなく、かといってゾル家との親交を深める役割を果たすわけでもなく、家を飛び出してきてしまったんだもの。
まぁ、またあそこにいたら他の縁談とかも舞い込むだけだしある意味良かったのかもしれないが、生きていくためにはこれからも仕事を辞めるわけにはいかない。
才能があったって、こんな仕事は人脈と信用が無ければ意味がない。1からやりなおし。なにもかも、全部。
今頃イルミは私が縁談を蹴ったこと聞いたかな。
大事な弟をコケにされて、きっと怒ってるだろうな。
それでも私の意思は固かった。
強情すぎるまでのこの性格は、正直自分でも持て余している。
だけど嫌なんだ。イルミじゃないと。
イルミしか好きになれない。
不幸でとても幸福なことに。
※
キルアと揉めたその足でウルの実家に向かうと、何やらこちらの様子もおかしい。
ようやく会えたウルの両親は酷く取り乱していて、ウルがいなくなったのだ、と言った。
「本当に申し訳ありません。うちの馬鹿娘が…。あの子ったら一度決めたら強情でして、私達も何度も説得したのに…」
親にまで馬鹿って言われてるのか。さすがウルだな。
説得しに来た筈なのに、何故か彼女がいなくてホッとしている自分がいる。
オレは一体彼女になんて言うつもりだったんだろう。
キルアに言ったように、お前の才能が必要だからとでも?
そうなればきっとまた、彼女を泣かせることになっていたに決まってる。
正直、自分でもどうしたいのかわからなかった。
ウルのことが好きだけれど、好きだと思えば思うほど遠く感じる。
彼女の才能を見る度に、心のどこかでいつかキルアの妻になるんだろうなと思っていて、遺伝子的な相性の結果を見た時にやっぱりなと確信した。
「探してきます」
オレもつくづく最低だ。
キルアの妻にしてしまえば、少しでも彼女と一緒にいられると思ってしまったのだから。
何が大事な弟だ、笑わせる。ダシに使ってるくせに。
「…どこに行ったの、ウル」
実家でもゾルディックでもなくて、一体お前はどこに行こうって言うのさ。
探してきますと言ったものの、イルミには彼女の行きそうなところが全くわからなかった。
いつだって追いかけてくれていたのは彼女の方で、オレから彼女を探したことなんてない。
今更ながらそれが自分と彼女の現実だっだのだと思った。
[
prev /
next ]