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■ 25.一番の功労者

広い館内だが、あれほどの威力があれば当然その揺れは伝わってくる。
いや、実際揺れたのは博物館だけでなくその周りの土地もなので、何も知らない人々は地震だと勘違いしたかもしれない。当然、セキュリティーはフィンクスたちがなんとかするものと思い、お宝の方へと先に足を進めていたクロロ達も、この大きな揺れに見舞われることになった。

「ちょっ、なんだいこの揺れは……」
「ハ、どうせあのバカ二人ね」

マチの困惑にフェイタンが答えたが、当然彼女だって元凶くらいはわかっているだろう。なんだい、というのは予定にない揺れに対する非難であり、また呆れでもあった。

が、しかし。

呆れていられたのはそこまでで、不意にけたたましい警報音が鳴り響いたのだ。そして次々と閉まっていくシャッターに、シャルは小さく苦笑する。

「あちゃー、あの二人に頼んだのは失敗だったかなぁ」
「シャル、解除できそうか」
「ま、なんとかやってみるけどね」

誰も慌ててはいないし、さしてピンチと言うわけでもないが、面倒事は誰だって避けたいものである。これから解除に取り掛からねばならないシャルも可哀想だが、一番機嫌を悪くしたのは閉じ込められたせいで暴れられなくなったフェイタンだった。

「ちっ、こんなものぶち壊せばそれまでよ」
「だから壊したからこーなってるんだって。皆は知らないけど、ほんとここのセキュリティー面倒なんだよ?オレがどれだけ苦労したと思ってんの」
「壊せばまた別の仕掛けが作動するのか?」
「もー勘弁してよ、団長まで強行突破するつもり?次こそ作動したらお宝は地下奥深く。流石のオレ達でも厄介なことになるよ」
「最悪のケースを考えて聞いただけだ、ここの解除はお前に任せる」
「ったく、簡単に言ってくれちゃってさぁ」

文句を言いながらも、既に持参してきたパソコンでおおもとの警備会社をハッキングしているのがシャルである。後で絶対フィンに償ってもらうからなーとものすごい表情をしていることはさておき、頼りになるのは間違いない。

ひとまずしばらく待つしかないな、とクロロが諦めた頃、シャッターの向こう側でよく知る人物の声が聞こえた。

「おーい、団長たちそこにいんのか?悪ィな、なんか作動しちまった」
「もしかして閉じ込められてます?今開けましょうか?」

僅かな反省は見られるものの、その声は非常に呑気なものである。フェイタンなんかは憚りもせずに盛大に舌打ちをしたが、それより必死なのはシャルの方であった。

「ちょっ!二人は絶対シャッターに触れないでよね!絶対だからね!」
「はぁ?なんでだ?今からぶち開けて出してやろうって言ってんのに」
「これだから嫌なんだって!怪力馬鹿どもは」
「ども、ってえ?私も入ってるんですか?」
「当たり前だろ!ウルも共犯だよ、きょうはん!」

喋りながら手を動かす器用さには舌を巻くばかりだが、流石に説得までをも任せるのは忍びない。クロロはシャッターの向こうの二人に呼びかけると、とりあえず何も壊さないようにしろ、もしも出会った人間がいれば片付けろと指示した。

「一応聞いておくが、ここまでくる間に何も壊してないだろうな?」
「あぁ、こっちは基本展示スペースじゃねーみたいで、ここまでシャッターは降りてこなかったぜ」
「でもやっぱり博物館の外には出られないみたいです」
「そうか、もう少しすればどこも開くはずだ。開いたら俺とフェイですぐ宝を取りに向かう。フィンとウルはマチたちと適当に暴れ……つつも物を壊さないように。いいな?」
「おう」
「わかりました」

ここまで言っておけば、もう心配はないだろう。今度はマチというお目付け役もいることだし、お宝が地下深くにしまい込まれてしまうことはなさそうだ。

「うーん、とりあえずここはもう開くよ。一斉に全部解除ってのは無理だからオレはここに残るけど、」
「ああ、構わない。残りも頼んだぞ」
「じゃあ、団長達も頑張ってね」

その言葉を皮切りに、機械音を立ててシャッターがゆっくりと上がっていく。その下をかいくぐるようにして先へ走って行ったフェイを追えば、既に血しぶきが廊下を汚していた。どうやら相当鬱憤が溜まっているらしい。

クロロは器用に床に転がる死体を避けていくと、ただ一直線に宝のありかへと足を進めた。

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