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■ 18.招集

幻影旅団─通称『蜘蛛』と呼ばれるその集団は、全員がA級首の犯罪者で組織される、いわゆる盗賊である。とはいえ、年がら年中お宝を求めて奔走しているということはなく、大きな仕事があるとき以外は各々好きに過ごしているのが普通だった。

「や、久しぶり、今回は俺が一番乗りかな」

言われてふと時計を見れば、招集時刻より15分も早い。クロロは読みかけの本から顔を上げると、あぁ、久しぶりだな、と返事した。

「いつもはパクが早くに来るが、今回あいつは来れないらしくてな。だから必然的にシャル、お前が一番乗りだ」

互いにしばらく会っていなかったが、まるでそんな空白期間などなかったかのように会話は進む。特別な大仕事を除いて、基本的に全員を呼び出すことはなかった。

「嫌な言い方だなぁ、それじゃまるで繰り上げ1位だよ。ていうか、パク来れないんだ?珍しいね」

「今は少し離れた所にいるらしい。まぁ今回は完全な盗みで特に記憶を引き出すような予定もないし、俺が無理をしなくていいと言ったんだ」

「さすがうちはホワイト企業だなぁ。たまーに俺だけブラックだけど」

にっこりと愛嬌のある笑みを浮かべたまま、やんわりと棘のある発言をしたシャル。長い付き合いなので彼が本気で怒っているわけではないことくらいわかるが、今回は少しばかり無茶を言い過ぎたらしい。「言ってたセキュリティの件、どうにかなりそうか?」何を盗むかは大抵招集してから皆に伝えるのだが、下準備としてシャルにだけは教えておくことがよくあった。

「問題ないよ、ちょっぴり手こずったけど侵入経路は任せて」
「そうか、頼りにしてるよ」
「それを言われちゃうと頑張るしかないね。
で、パクが来ないとして今回のメンバーは?」

話している間に時計は招集の10分前を指す。

「ほぼ初期の面子だよ。アタシとフィンとフランクリン。フェイは遅れて来るってさ」

クロロの代わりにシャルの質問に答えたのは、ちょうど到着したばかりのマチだった。偶然来るときに会ったのか、後の二人も遅れてアジトの中に入ってくる。そこまで重い仕事でもないと伝えていたので、今日のフィンクスは正装らしい帽子を被っていなかった。

「フェイの奴、小さい仕事は乗り気じゃねーってさ」
「小さいって言うけど、下準備結構大変だったんだよ?」
「だからそういうのは柄に合わねーんだよ。もっとこう、パァーって大暴れできるようなのがいいんだって」
「だったらフィンも来なきゃよかったのに」
「そういうわけには行かねーだろ。今回、"あいつ"にも招集かけたって聞いたからよ」

フィンクスは近くにあった瓦礫にどっかりと腰掛けると、少し不機嫌そうに口を尖らせた。言わずもがな、彼が指している"あいつ"とは最近蜘蛛に入ったばかりの男で、4番の刺青を持つヒソカのことだった。

「俺はあいつがどうも気に食わねーんだよ。団長のことあからさまに狙ってんのに、なんで入れるかな」
「蜘蛛への入団資格は満たしてる、あいつは前の4番を倒した」
「そりゃそーだけどよ、何もこんな人の少ない時に呼ばなくたっていいだろ」

不貞腐れた様子で肘をつき、なぁ、と壁際に立つフランクリンに同意を求める。「そうだな、あの男は油断ならない」正直に嫌悪感をむき出しにするマチはともかく、シャルも顔には出さないものの積極的に絡みに行っているのを見たことがないので、ヒソカのことを快く思っていないのかもしれない。

「さてはフィンってば団長が心配なんだ?」
「うるせぇ、バカ!そんなじゃねーよ、団長があんな奴に負けるなんて思ってねぇ!」
「まぁでも確かに、フィンが来てくれなかったらバリバリの武闘派はいないよね。ノブナガとウヴォーは?」
「あいつらは旅行中だよ。なんでもジャポンへ行ってるとか」
「なんだよそれ、俺も誘ってくれたらよかったのに。
……じゃああの4番は戦力に呼んだの?」

クロロはそうだな、と頷いた。確かにヒソカは怪しく、時折嫌な殺気をぶつけられるが、仮にも団員になった者をそうつまはじきにするわけにもいかない。それに戦力になるのは本当のことだった。

「……噂をすれば来たみたいだよ」

マチが心底嫌そうに呟くのと、粘着質なオーラを体感するのはほぼ同時。つられて入口の方に視線を向けると、相変わらず奇妙な出で立ちをしたヒソカがゆっくりゆっくり近づいてきていた。

「や、お待たせ

口元に笑みを浮かべ、その狐目でこちらを舐め回すように見てくるのはいつものこと。だが、珍しいことに左腕を負傷しているようで、そしてもっと珍しいことにヒソカは一人ではなかった。
当然見知らぬ気配に他の団員達も気がつき、全員の視線が入口に集まる。

「おい、そいつ誰だよ?」

真っ先に疑問を発したのは、他ならぬフィンクスだった。

「ヒソカてめー、どういうつもりだ?」

言いながらも既に立ち上がり、臨戦態勢になる。団員でない人間をここに連れてきたこともそうだが、何よりヒソカが連れてきた人間というところに警戒せざるを得ない。ヒソカの後ろに隠れるようにして立っているのでよく見えないが、どうやら若い女のようだった。

「やだなぁ、ボク団員同士のマジギレ禁止だって聞いてたんだけど
「別にまだキレてねーよ、それより質問に答えろ」
「とりあえずウル、挨拶しなよ

ヒソカに促されるようにして、おずおずと前に出てきた女。瞬間、彼女に鋭い視線が突き刺さることになったが、その表情に怯えや緊張の色は一切見られなかった。
それどころか、この顔は。

「は、初めましてウルと申します!幻影旅団の皆さんに会えて光栄です!」

うっすらと頬を上気させ、彼女は早口で自己紹介したあと頭を下げた。かと思えば今度は勢いよく顔を上げ、輝いた瞳で一人一人をじっと見る。

「これが蜘蛛……すごい、ピリピリしてる。わぁ……本当にすごい」

突然現れた彼女のあまりに場違い過ぎる態度と発言に、ヒソカを除いた蜘蛛の誰しもが困惑を隠しきれなかった。

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