■ 17.一旦整理
「げ、幻影旅団って!」
知ってるも何も、ウルが探していたのはまさしくその集団。怨恨や賞金狙いではないため、ヒソカと戦って楽しんだ後は用が無いといえば無いのだが、まさか今更ヒソカの口からその名前が出てくるとは思ってもみなかった。
しかも仕事絡みということは、もしかしなくても……。
「えっ、え?嘘、団員なの?」
「驚いたかい
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?」
「だって、私が聞いたときは知らないって!」
「聞かれてはないよ
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探してるってのは聞いたけどねぇ
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」
「そ、そんなひっかけみたいな……」
だが、逆の立場に立ってみれば自分の素性を初対面の小娘なんかに明かすはずもない。抗議のために開きかけた口は、勢いを失って唇を僅かに震わせるにとどまった。そして単純な頭のつくりをしているウルは、次にその興奮を受け止めるので大忙しだった。
「それにしてもすごい!こんなところで蜘蛛の人に出会えるなんて!」
「ウル、ちょっと声が大きいよ
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」
「だってびっくりしちゃって!道理で強いんだね!仕事手伝うってことは他の人にも会わせてもらえるの?」
「あぁ、そういうことになるね、でも」
ヒソカはにっこり笑い、長い指を一本立ててウルの唇に押し当てる。「落ち着いてくれよ、ボクは先にウルの話が聞きたいんだ
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」促されるままにソファへと座らされ、ウルはようやく自分がはしゃぎすぎたことに気が付いた。気が付くと今更恥ずかしさがこみ上げて来て、誤魔化すように咳払いする。だが咳払いをしたらしたで折れていたあばらにずきんと響いて思わず顔をしかめた。
「キミってば、さっきから一人で忙しそうだね
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」
「だって……」
「ま、いいや
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試合中も言ったけど、ボクとイルミは知り合いだから気兼ねすることはないよ
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今度こそキミが家出した理由を詳しく聞かせてくれないかい
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?」
「……」
イルミ、という名前に思わず顔が強張る。驚くことがありすぎて今まで気が回っていなかったが、確かに試合中そんな話をした。ウルだって目の前のヒソカとイルミの関係は気になるし、自分の知らない彼のことはなんだって知りたい。
だがいざ話そうとするとどこから話してよいものかわからず、気まずそうに視線を落とすしかなかった。
「おやおや、ボクにだけ話させて自分はだんまりなんてフェアじゃないなぁ
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これから仕事を頼もうっていうんだから、信頼関係が何より大事だろう
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?」
「そうじゃなくてなんていうか……その、イルミから私のこと何か聞いてる?」
「何かって
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?」
「だから……イルミは私のこと探してる?」
ウルは探るように目の前のヒソカを見つめた。もしも二人が知り合いでイルミがウルのことを探しているのなら、この時点でウルは自宅に強制送還。蜘蛛へ行く話など回ってくるはずもない。それなのにヒソカが蜘蛛の話をしたということは、彼が知り合いだと偽っているか、イルミがウルのことなんかすっかり忘れてしまっているということになる。
真実がどちらだとしても辛いけれど、家のことを話す前に確認しておかなければならなかった。
「なるほど、ボク疑われてるんだ
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?」
「ごめんなさい、一応」
「イルミはキミを探してる
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でも安心しなよ、ボクはウルの居場所をばらすつもりはないから
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捕まったら結婚させられちゃうんだろう
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?」
「たぶん……」
全部なかったことにして、家に帰るなんて甘えは許されないだろう。ウルの家とゾルディックはそれなりに付き合いもある。またどこで顔を合わせるかもわからない。イルミが探してくれていると聞いて少しほっとしたウルは、自分でも見つけてほしいのか見つけてほしくないのかよくわからなくなっていた。
「まぁ、キミが逃げ出す気持ちもわかるよ
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彼、人間的に欠けてるとこあるから、結婚なんかしたら大変そうだしねぇ
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」
「欠けてるのかもしれないけど、悪い人じゃないよ。本当はすごく優しいから」
「そうそう、優しい……え
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?」
「え?」
途中から労わるような笑みを向けていたヒソカは、ウルの言葉に同意したあと固まった。こちらもこちらで、どうしてヒソカが固まったのかわからず瞬きをする。
一瞬、二人の間に微妙な空気が流れた。
「……優しい
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?」
「うん、イルミは優しいよ。厳しいけど優しい」
「ちょっと待って、ウルはイルミのこと嫌いなんじゃないのかい
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?」
「私が!?なんで!?」
「いや、こっちが聞きたいんだけど……
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」
ヒソカは無事な方の手で額に手をやると、一旦整理しようねと言い出した。彼の真剣な表情に引き込まれるようにして、ついついウルまで背筋が伸びる。本当にイルミの知り合いだとしたら、彼が優しい人だってことはよくわかってるはずなのだが……。
「ウルは結婚が嫌で逃げてきたんだよね
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?」
「うん」
「他に好きな男がいるんだよね
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?」
「う、ん……?他にっていうかイルミだけど」
ウルが好きなのは最初からずっとイルミだけ。もちろん今までもそのつもりで話していた。だがヒソカの細い目が見開かれたことで、互いに何か勘違いしていたんだろうなと察した。
「……じゃあ政略結婚って
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?」
「キルアだよ、イルミの弟」
「ということはつまり……」
そこまで言いかけて、ヒソカは不意に笑い出した。それもいつものにやにや笑いではなく、肩を揺らして声をあげて笑い出す。わけがわからない。ウルは流石に気味が悪くなって、少し体を後ろに引いた。
「ど、どうしたの……」
「ククク、いや、ごめんねぇ
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ボクってば勘違いしてたみたい
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でもイイ、キミもイルミも本当に楽しませてくれるなァ
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」
固まったかと思えば次は急に笑い出したり。ヒソカだって充分感情の忙しい人だと、ウルは心の中で呟いた。
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