- ナノ -

■ 11.賭け事

「さぁ!皆さんお待ちかね!
本日の最終試合はーッ!リングに姿を見せれば負けなし!奇術師ヒソカー!と、
そしてそれに対しますは、こちらも未知なる可能性を秘めた紅一点!今回が200階クラス初試合となるウル!」

実況のアナウンスに会場が大きく沸き立つ。
しかしそれは内容の良し悪しに関わらず、もっぱらヒソカに対して向けられた物であって、本当にウルの実力に気づいているものは少ないだろう。

実際、ヒソカも試合の前にウルの戦績は調べてきていた。
しかしそれを見る限りではウルは負けた試合もあるし、特に目立った勝ち方をしているわけでもない。
それは彼女にとって100階以上の個室を得るための作戦だったのだろうが、ここ天空闘技場においての勝負は賭け事の側面も有している。

案の定、電光掲示板に表示された掛金はヒソカの優勢を予想していた。

「やぁ待ちに待ったこの日が来たね

「お手柔らかに、とは言いません」

「ククク、いいだろうキミがその気なら

彼女が若い女性、それも見た目は普通に華奢な、とあって心無い野次もいくらか飛び交う。
それでもリングにあがったウルの瞳には、ヒソカしか映っていなかった。

「それでは、ポイント&KO制!時間無制限一本勝負!」

ぐっ、と彼女の体を包むオーラが濃くなる。「始め!」その合図と共に小細工なしでウルは真っ直ぐ突っ込んできた。

「おっと」予想以上に速い。頬のすぐ傍を拳が掠って、思わずひゅうと口笛を吹く。なかなか楽しめそうだ。

強化系らしくパワー十分で、ヒソカといえどもしっかりガードしなければ危ないだろう。
相次ぐ連撃にじわりと後退すればすかさず強烈な蹴りが脇腹へと叩き込まれ、それを手で抑えたヒソカはにやぁと笑った。

「いいねぇいいよ、キミすごく」その瞬間、ウルは大きく距離を取る。
観客も思わぬ彼女の戦いっぷりにどよめいているようだった。

「変なもの、つけようとしないでください」

「おや、バレたかい?」

「凝は基本と習いましたからね」

淡々とそう語る彼女だが、その瞳は欲に濡れていた。彼女もヒソカ同様にこの戦闘を楽しんでいる。
「あぁ……イイ興奮してきちゃったよぉ……」背筋をゾクゾクとしたものが伝って、麻薬のように快感が脳内を満たした。

でもまだ殺したら勿体無い。イルミが探していて後々面白いことになりそうだということを除いても、彼女はまだまだ強くなる。
とはいえこちらとしても出し惜しみをしているわけにもいかず、ヒソカはどこからともなくトランプを取り出した。

「ボクも本気出さなくちゃね

ククク…と笑い出したヒソカの身体の異変に気づいたウルは、少しぎょっとした表情になったもののそれでも依然として射るようにこちらを見る。「おーっとこれは変態です!完全な変態です!ウル選手逃げてください!」いつしか心無い野次を飛ばしていた奴らでさえ、ウルに同情していた。

「そうだウル、ボクと賭けをしないか

「賭け……?」

「そう負けた方は勝った方の言う事をなんでも1つ聞く、っていうのはどうだい?」

直情型のウルはこういった難しいやりとりはあまり好きではないようで、思っていたほどの反応は得られない。だからヒソカは付け足した。「もしキミが勝てば、イルミとのことを協力してあげてもいいよ」これはヒソカ的には嘘の情報を流して、彼女の逃亡を助けるという意味だった。

「……!イルミを、知ってるの!?」

「詳しい話は試合の後で、だよ

「…わかりました」

さっさと終わらせましょう。そう言った彼女から迸ったのはほとんど殺気に近いようなオーラ。
分かり易いくらい本気を出したウルにヒソカは自制できるかどうか自信がなくなってきた。


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