■ 8.生まれ持った性分
この人は失礼だと思った。
そりゃ確かにいきなり戦ってくれと言った私も私だが、別にここでの戦闘申し込みはおかしなことではない。
階数だってウルなら今すぐにでも200階へ行ける。
それなのにウルが女だからか、目の前のピエロルックの男は肩を震わせて笑った。
「なんなんですか」
「…ククク、ごめんよぉ
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あんまりにもキミが可愛かったから
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」
「可愛い?馬鹿にしてるんですか?」
正直馬鹿にされるのには慣れているけど、こんな初対面の人にまで言われるのは嫌だ。
少しムッとして睨みつけたのに、彼はにこにこと嬉しそうにしていた。
「ボクはヒソカ
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キミの名前は?」
「ウルです」
「そ、ウルか
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いいよ、キミと戦ってあげよう
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」
彼の自信たっぷりな返事に、周りがざわざわとなる。
確かにヒソカというこの男は強いだろう。だけどそもそも強い相手を探しているウルがここで怖気付くわけもなかった。
「どうする
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?ここで戦うかい、それともルール無用で外でやるかい
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?」
「別に殺し合いをしたいわけじゃないので。
ここでいいです」
「そう、だったら日にちを合わせないとね
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」
ヒソカと戦うためにはまずウルが200階まで上がらなければならない。
今日中にそれは済ませるとして、早く彼と戦いたかった。
「ところでキミ、殺し屋かい
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?」
「え……?」
ウルが今日の試合を受け付けている間、後ろに立っていたヒソカがそう問う。
びっくりしてウルは思わず距離を取った。
「なんで…」
「ここまで歩いてくるのに、足音一つしなかったから
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ボクにも殺し屋の知り合いがいるんだよね
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」
「あぁ…なるほど」
もはやこれは職業病のようなもの。ゾルディックの家でも実家でも誰一人として足音がしないのは当たり前だった。
しかしこれではせっかくオーラを垂れ流していても意味がない。
ウルは少しバツの悪い顔をして、元ですけどと答えた。
「元
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?」
「家出したんです、結婚が嫌で」
「へぇ、ありそうで無さそうな話の典型例だね
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」
「まぁ…」
彼の言う通り確かに政略結婚はありふれているが、
本当に嫌で逃げだす者などそうはいない。
たとえ望まぬ結婚だとしてもそんな度胸も甲斐性もないというのが実際のところだろう。
それに政略結婚なだけあって自分一人のことでは済まされないのだ。
何もかも捨てるにはリスクが大き過ぎた。
「それで、逃げ出してきたことと戦いたいことにどんな関係があるんだい
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?」
「……すかっとしたいんですよね、八つ当たりかも」
「ククク…それはまた随分とタチが悪いなぁ
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」
「殺し屋にいい奴なんていませんよ」
もっとも、性質に関しては私よりもこの男のほうが悪そうだが。
話していくにつれ、ヒソカの周りのオーラがねっとりとしたものに変わっていく。
大丈夫かな。勝ち目あるかな。
最近まともな試合はおろか、修業だってしていないし体がなまってるかもしれない。
早速鍛えに行かなくては、と踵を返そうとしたウルを後ろからヒソカが呼び止める。これ以上何を話すことがあるのだろうと振り返れば、彼は少し呆れたように肩をすくめた。
「どこ行くんだい
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?」
「え?」
「キミさっき今日の試合の受付をしたろ
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それ、あと10分後だけど
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」
「あ…そうだった」
急いでるからと言って無理に組んでもらった試合。
ウルは少し赤くなって、選手控室へと足を進めた。
「キミ、大丈夫
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?」
「…ちょっと、考え事してただけですから」
うう、これじゃあ全く格好がつかない。
ニヤニヤ笑うヒソカの方は見ないようにして隣を通りすぎた。
「頑張ってね
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」
頑張ることはいつだってやってきた。
それでも報われないこともあるけれど。
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