■ 8.どうして反抗期ってあるの
「さぁ、やってみて」
念の四体行はもう完璧。
応用もそつなく出来るようになったし、そろそろ水見式やってみてもいいかな。
ヒソカの連絡先が見えるようになったのは腹立たしいけれど、見えたとわかったとたんにオレが破り捨てたし問題ない。
出来のいい弟子はなかなかに可愛いものだね。
バカなのは相変わらずだけれど、そこがまたほっとけない感じがするし。
…って、オレは何考えてるんだろう。
レイはターゲットなのに。
情をうつしちゃだめだってわかってるのに。
オレ、キルに怒る資格ないかも。
「イルミさん、これはなんですか」
「え?ああ、これはね水見式って言って、念の系統を見るためのものなんだよ」
考え事に没頭していたところを、レイに引き戻される。
やってみて、と言われても彼女は何をしたらいいのかわからないのだ。
「系統?」
「念には大きく6つの種類があるんだ。強化系、変化系、具現化系、特質系、操作系、放出系…まぁ、どういう能力かは名前のまんまだから難しく考えないで。取り敢えず、発をやってごらん」
「はい!」
元気よく返事をして、レイを手をグラスの上にかざす。
イルミはどんな些細な変化も見逃すまいと、じっと水面を見つめた。
「あっ」
程なくしてグラスの水は深紅に変わり、ごぼごぼと溢れだした。
かとおもえば、底の方にキラキラとした宝石のような沈殿物が形成されているし、浮かべた葉っぱが伸び、小さな蕾を結ぶ。
最後にイルミはグラスの中の水を舐めた。
血の味…。
だが、決して鉄臭い嫌な味ではなく、ほんのりと甘かった。
「わ、テーブルが…」
溢れた紅い水は生き物のようにテーブルいっぱいに拡がる。
ここまでくると完全な特質系だ。
イルミは血の味を確かめるように、ぺろりと唇を舐める。
「ごめんなさい、こんな…」
「いいよ、別に。それより、レイは特質系だね」
「特質系?」
さっきは名前のまんまだと教えたが、特質系ではそうはいかない。
きょとんとするレイにイルミは一から説明することにした。
※
「…ということは、一から自分で能力を考えなきゃいけないということですか」
「そうなるね。でも、好きに考えられるわけだしお得じゃない?」
「自由って言うのが一番困るんですよね…」
レイは神妙な顔で呟く。
確かに、今まで自由とは程遠い世界で生きてきた彼女にとっては、難題に思えるかもしれない。
同じ系統だったらアドバイスも出来るんだけど、と考えてイルミはその考えをすぐさま打ち消す。
特質系は変人が多い。
まだ人間自体に耐性のないレイを会わせるなんて正気の沙汰じゃないや。
「とにかく、時間はあるんだからゆっくり考えなよ。
オレはしばらく仕事で帰らないけどいい子にしてるんだよ」
「…え、イルミさんいないんですか?」
「うん、出来るだけ早く帰ってくるようにするけど」
「はい…」
しょんぼりと肩を落として。
そんなにオレがいないの、寂しい?
イルミは見た目にはわからないが、確かに微笑んだ。
キルもこれぐらい素直だったらいいのに。
***
…もう、嫌だ。
俺は自由に生きたい…
もう、人殺しなんてうんざりだ…
普通に友達をつくって
普通に友達と遊びたい…
それが俺の望んでること…
それぐらい望んだっていいだろ…?
なぁ、兄貴…
兄貴だって一回ぐらいは、そう思ったことあるだろ…?
*********
オレが家に帰ってみると
母さんが歓喜しながら喚いていて、
ミルは怒っていて、
レイは泣いてた。
キルが家出したんだって。
なに考えてるんだろう。
オレから、この家から逃れられるとでも思ってるのかな。
オレはちゃんと教えたはずなんだけど。
母さんは早く連れ戻せってうるさい。
ミルの調べでは、家出する前にキルはハンター試験に申し込みしてたんだって。
ハンターになりたいの、キル?
無理だね、お前には向いてないよ。
お前は生まれながらの殺し屋。
レイが生まれながらの生け贄であるように、お前も自分の運命から逃れられない。
ホントはオレがそうなるはずだったんだけど
…悪いね、キル。
お前に全部背負わせてさ。
だからせめて、オレにお前を育てさせてよ。
殺し屋に感情なんていらない。
あると辛いだけだから。
待ってて、キル。
オレがお前の邪魔になるものは全て消すから。
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