- ナノ -

■ 7.どうしていつも勝手に来るの


最近、イルミに女が出来たらしい。

もちろん初めはボクだって疑った。あのイルミに女、それも特定のなんて笑っちゃう。もしくは怖い。
だがそうとしか考えられないのだ。

もともとツレナイ態度だったけど、最近は飲みに誘ってもことごとく断られる。弟の訓練かと聞けばそういうわけでもないらしい。
女が出来たなら出来たで、一言ぐらい言ってくれてもいいのになぁ。

もちろん、イルミはあえてボクに隠しているんだろうけど、隠されると余計に暴きたくなるものだ。しかもイルミが気に入る女となれば尚更。

ボクがそれとなく聞き出したところによると、今日はイルミは仕事で遅いらしいからチャンスだった。
味見するかはさておき、とりあえず見てみたい。


ボクに内緒にしてたキミが悪いんだよ。





ボクがベランダに立つと、誰ですか?と中から声をかけられる。
いいね。絶してたんだけど、わかっちゃった?
もうこの時点からにやにやが抑えきれない。
「彼女」はベッドに腰を掛けて、本を読んでいたようだった。

「やぁ、初めましてだね★」

ごく当たり前のようにベランダから侵入すると、お目当ての彼女が視界に入る。
流れるような艶のある銀髪と青い瞳。
華奢な体つき、白い肌。
まるで絵本の中から抜け出してきたかのような彼女に、ヒソカは内心舌を巻いた。
彼女は彼女で、こちらの奇抜な格好に驚いているようだった。

「あの…どちら様ですか?」

「ボクはヒソカ。イルミの友達だよ★」

ぱちん、とウインクすると彼女はあわてて立ち上がり、頭を下げる。

「わ、私はレイ=マクマーレンです。イルミさんは…えっと、私の命を狙ってる人で師匠です」

「ん?どういうことなのかな?」

イルミの女ではないのか。
もっとも、どちらにしたって美味しそうだから、ヒソカには関係ないのだが。

「ややこしいんですが、イルミさんは私の暗殺を依頼されてるんです」

「そう…じゃあ、なんでキミは生きてるのかな★」

イルミは仕事だけはきっちりこなす男だ。
まさか、彼女に惚れて…なんてことはないだろう。
それにしても、いい目だね…強いものの目だ。ゾクゾクするよ。
しかし品定めするように彼女を眺め回したが、特にそれ以外で気になる点はなかった。

「ああ、それは、私が殺されない体なので」

「イルミでも無理だったの◇?」

殺されない体?どういう意味だ。一瞬からかわれているのかと思ったが、彼女の表情は真剣。
だからあのイルミでも殺せない女、と呟いてみるとますます興味が湧いた。「そうなんです」
ボクは頷いた彼女を見て、ふーんと呟いた。
次の瞬間、念を込めたトランプを本気で投げる。
しかし、トランプは彼女に届く前に、じゅっと煙をあげて、溶けてなくなった。

「こういうことなんです…すみません」

「へぇ、それは念かい?」

「いえ、体質です。念はまだ修行中なので」

「いいねぇ……◆」

ヒソカはもう体が熱くなるのを止められなかった。
なんて素晴らしい青い果実!!
イルミが独り占めしたくなるのもわかる。これはなかなかに珍しい。利用価値もあるかもしれない。

急に舌なめずりしたヒソカに、さすがのレイも少したじろいた。
でも、イルミの友達だと思っているからなのか、素直に質問に答える。

無防備なのも可愛いねぇ◇

ヒソカはおもむろに彼女に近づいた。
警戒心のない彼女の顎を持ち、上を向かせる。
きょとんとした瞳がヒソカを見つめていた。

「ヒソカさん、どうしたんですか」

「ん〜?キミがあんまり可愛いからさ★」

「えっ…」

彼女はパッと紅くなる。
その反応を見るに、イルミはそういうこと言わないんだろうねぇ◇

だが、次のレイの言葉を聞いて、ヒソカのにやにや笑いはぴたりと止まった。

「ヒソカさんは女ですよね」

思わず、まじまじと彼女を見つめるが、ふざけているようには見えない。

「…どうして、そう思ったのかな★」

「化粧…してるから…」

レイはおそるおそるといった感じで答える。
ヒソカは訳がわからなかったが、せっかくのチャンスをフイにするような男ではない。

「フフ、正解。ボクは女だよ◇
だから、何してもいいよね?」

くつくつ、とヒソカは笑うと彼女をベッドに押し倒した。
えっ、と慌てる彼女だが、この体格差は覆せない。
驚いているうちに、ヒソカはすぐ目の前にまで迫っていた。

「そこまでだよ、ヒソカ」

凄まじい殺気を感じ、こらえきれずにニヤリと笑う。
イルミが近くまで来ているのはわかっていた。
だからどこまでこの女を大事にしているのか、知りたくて試してみただけだ。
イルミが止めなければ、それはそれで美味しいしね◇

だが、賭けは大成功だったよう。
イルミはこれまでにないくらい怒っている。

「どうせ、こんなことだろうと思ったよ」

「バレてたかい?◇」

薄ら笑いを浮かべながら、レイを解放する。
彼女はしばらく固まっていたが、イルミを見て飛び起きた。

「ヒソカはいつもろくでもないことしかしないからね」

「ボクのことわかっててくれて、嬉しいよ◇」

レイから離れるとイルミの殺気も和らぐ。
これは面白い。

「レイ」

「っは、はい!」

「ヒソカは別にオレの友達じゃないから、今度から無視してね。
あと、ヒソカは男だから」

「えっ、そうなんですか」

「変態だし、嘘つきだから近づいちゃダメ」

「酷いなあ★」

あまりの言われようだが、これくらい御愛嬌。まだまだイルミを煽るだけの手札はこちらにある。

「ところで、キミが彼女の師匠なんだって?ターゲットなのにいいのかい★?」

「はぁ…そこまで聞いたの?」

やはりその点にはあまり触れられたくなかったのか、イルミは不機嫌をオーラで表し腕を組んだ。

「不本意なんだけどね。親父の命令だから仕方ないよ」

「そうは見えないけどなぁ☆」

「ねぇ、もう帰ってくれない?
いつも勝手にベランダから入ってきて迷惑なんだよね」

自分だってよくベランダから出入りするくせによく言うよ。
無表情のイルミがそう言ってもちっとも怖くなかったが、わざとからかう様に怖い怖いとヒソカは怯える真似をした。

「やれやれ、キミがそこまで言うなら、今日のところは帰るよ★
またね、レイ。今度あったときはこの続きをしよう◇」

そう言ってただのトランプをぴっ、と投げる。
名刺代わりだ。
そこには念でヒソカの連絡先を書いておいた。

「二度と来ないでよね」

一番見つかりたくないやつに見つかった、とイルミはわざとこちらに聞こえるように呟いた。
それがヒソカを喜ばせているとも知らないで。

[ prev / next ]