- ナノ -

■ 6.どうしてそんなに頑張るの

「…遅い」

いきなり厳しすぎたかな。
当然だけど基礎体力が全然ないから、朝から腹筋、腕立てを500回ずつやらせたのだけれど、もうそれだけで日がくれそうだ。
今は敷地内に置き去りにして、戻っておいでと言ったのだけれど、いつまでたっても帰ってこない。

もしかして、死んだかな?

よくよく考えてみると、他殺では死ななくてもトラップにはまる、つまり事故なら死んでもおかしくない。
だから親父は修行をつけろだなんて言ったのだろうか。

あまりに暇すぎて空を見上げると、もう星が出ている。
そろそろ探しに行くか。
別に死んでてもいいんだけどさ、事故死ってなんとなく癪じゃない?
ミケは溶かされちゃ困るから、追いかけるだけと命令してあるし、きっとその辺の落とし穴にでもはまってるんでしょ。

円を行うとあっさりと見つかって、気配のする方に向かって走る。
しかしおかしいな、気配でいうとミケもいるじゃん。


「何してるの、レイ」

オレが姿を表すと、彼女の代わりにミケはくぅんと鳴いた。
だめ、許してあげない。
だって、レイはミケに寄りかかってすやすや寝てるんだもん。
番犬としてどうなの、ミケ。

強く肩を揺さぶると、レイは目を覚ました。

「…ううっ」

「誰が寝ていいなんて言った?」

「…」

「オレ、ずっと待ってたんだけど」

「…すみません。つい、へとへとで」

彼女は起き上がろうとしたが、激しい筋肉痛で動けない。
あまりに無防備なその姿に、なんだか怒る気もうせた。

「もう、今日はいいよ」

レイを持ち上げ、屋敷に連れて帰る。
底無しのバカのくせに、しゅんとなってすみませんと、何度も謝った。

「シャワー1人で浴びれる?」

オレが聞くと、彼女は首を横にふる。立てないんだから、仕方ない。
適当にメイドにでも入れさせようと思っていると、彼女は思わぬことをいった。

「イルミさんが入れてくれるんですか」

「…入れてほしいの?」

「お願いできますか。私、どうしても動けなくて…すみません」

「…バカじゃないの」

そういえば、こいつは男女とかわかってないんだった。
オレだからいいけど、そんなこと言ってたら襲われるよ。
ほんと、オレで良かったね。

オレは泥だらけのレイをメイドに任せると、自分は自分でシャワーを浴びにいった。

それにしてもほんと、レイといると疲れる。
いつもの2倍はカロリー消費してる気がするな。
修行だけじゃなく、まだまだ教えることはたくさんあるらしい。主に一般常識的な意味で。
妹がいたらこんな感じなのかもしれない。

でもさ、レイ。
オレのターゲットなんだから、もっと危機感持ってよ。






それから毎日のように修行は行われた。

なんでも治すという彼女の血液のお陰なのか、怪我の治りや疲労回復、筋肉の再生など、驚くほど早い。
みるみるうちに力をつけてきて、もともと教育欲の強いオレは楽しくなってきていた。
しかもキルアやカルトは嫌々やってる、というのが滲み出ているけど、レイは違う。
辛くてもにこにこしてて、始めのうちこそ腹が立ったけど、教える側としては気分がいい。

困ったな、ますます殺せなくなっちゃう。
ヒソカじゃないけど、才能の芽を摘むのがもったいなくなってきた。
もう、事故死なんてしないぐらいには鍛えたし、いよいよ不死身なんじゃない?

レイはいつのまにかゾルディック家に馴染み始めていて、もはやいるのが当然だという認識にまでなっていた。
朝からキルアたちと修行して、昼は母さんとお茶をのみ、夜はミルキとゲームしてる。
もとがまっ更な状態だから世の中の知識もどんどん吸収して、まさに発展途上という感じだ。

「イルミさん、今日は何しますか?」

ああ、もう。
そんな楽しみっていう顔しないでよ。
痛いでしょ、辛いでしょ。
はっきり言ってさ、レイは頑張んなくていいんだよ。
強くなったって別に何をするわけでもないし、身はもともと守れるんだから十分でしょ。

どうしてそんなに頑張るかなぁ。

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