- ナノ -

■ 足して割ってA

「わーい、流石ヒソカおじちゃん!」

「おじ……そのおじちゃんってのやめてくれないかな󾬜?ヒソカでいいよ󾬝」

肩車をしてやって頭上ではしゃいでいるリルはレイに生き写し。しかし残念ながらその性格までは似なかったようで、家出の協力をして欲しいなんて電話がかかってきた時は正直びっくりした。
もちろん今までにだってリルと会ったことは何度かあったが、その時はこれ程までにお転婆だとは思わなかったのだ。猫を被っていたと言ってもいいくらい。

「で、家出なんてしてどこにいくんだい󾬛?」

おそらくこれが束の間の家出だということは、彼女もよくわかっているだろう。あのイルミならすぐにでも追ってくるはずだ。

リルはうーんと考え込むと、そうだ、と嬉しそうな声をあげた。

「クロロおじちゃんにも会いたいなー!」

「……えっとねぇ、ボクも会いたいんだけどクロロおじちゃんはボクを避けてるんだよねぇ󾬚」

「なんで?ヘンタイしたの?」

「ん〜変態する、って言葉がわかんないなぁ󾬜」

「だってパパがよく言ってるよ。ヒソカおじ……ヒソカはヘンタイだって」

確かに顔の真横にある幼女の白い太ももには若干心が揺れ動く。しかし何もそんなことをいちいち子供に教えなくてもよいではないか。

ヒソカは片手で携帯を取り出すと、クロロの番号を電話帳から探した。
クロロを追い回しているヒソカからの着信に、彼が出てくれるとは思えなかったがダメ元でかけてみる。

「……………やっぱり駄目だなあ󾬝ボクからの電話には出てくれないや󾬛」

「じゃあわたしがかけよっか?ママの携帯、持ってきたの」

「おやおや……󾬚とっても悪い子だねぇ󾬝」

ニンマリと笑ったリルは本当にレイと性格が全く違う。かといってイルミもこんなに器用なタイプでもないし、一体誰に似たのだろう。

「キミはレイとはまた別の意味で美味しそうだ……󾬜」

レイの携帯からなら、あのクロロだって電話に出るような気がした。





「で、なんで二人が揃ってるわけ?」

協力者を得るためにレイの携帯を使用し、さらにそれを持ち出した。その計画は子供にしてはよく考えた方だったが、いかんせんツメが甘い。
レイをこれでもかというほど溺愛しているイルミが彼女の携帯に発信機をつけていないわけがなく、逆に簡単に娘を発見することができたのだった。

「やぁイルミ、遅かったね󾬛」

「たまには外にも出してやれよ、この親バカ」

しかし、発信機の電波を辿ってたどり着いたそこにヒソカとクロロの姿を見つけ、イルミは思わず眉間に皺を寄せる。逆にレイの方は知り合いに会えて嬉しそうで、それがまた癪に障った。

「リル、ほら戻っておいで。帰るよ」

「パパ怖いからやだもん」

ぎゅ、とクロロにしがみつき、リルはそんなことを言う。どうやら既に散々ショッピングを楽しんだらしく、二人の男はたくさんの紙袋を抱えていた。

「すみません、クロロさん、ヒソカさん。うちの娘がご迷惑をおかけしました」

「いや、お陰でこうしてレイに会えたからな。娘の方は少し元気が良すぎるくらいだが……」

「ボクちょっとイルミの苦労がわかったかも……󾬚」

そう言って顔を見合わせたクロロとヒソカはどことなく疲れたふうでもある。
確かに子供慣れはしていないだろうが、それにしてもこの二人にここまで言わせるとはなかなかにすごい。
クロロの後ろに隠れていやいやと首を振った娘を見ながら、イルミはふと思いついた疑問を口にした。

「っていうか、クロロはヒソカと会って平気なわけ?」

確か、ヒソカはまだ除念後のクロロを追いかけ回していたはず。
それを聞いてクロロはあぁ、と苦笑し、ヒソカはバツの悪そうな表情になった。

「俺もここに来るまではこいつがいるなんて知らなかったさ。
だが俺が着いた時には随分とへばってたようでな、戦いをなんてする気分じゃないらしい」

「ほら、子供を戦闘に巻き込んだらイルミが怒るじゃない󾬛?」

「……なにそれ情けない。そんなことくらいで疲れてたら父親なんてできないよ」

「まったくだ、イルミを少し尊敬したよ」

クロロは肩をすくめると、とん、とリルの背中を押して前に出す。「また遊んでやるから今日は帰った方がいいぞ」リルは少し迷う素振り見せた後、だっとレイの方に駆け寄った。

「おかえりー、リル」

「ママ、まだもっと遊びたいよー」

「えっ、まだ?」

ぴょんぴょんと飛び跳ね、リルはレイの腕を引く。どうやら元気はありあまっているらしい。
反省の色が全くないのでイルミが呆れて叱ろうとすると、ふいにがさっと紙袋が押し付けられた。

「え、なに」

「じゃあイルミパパよろしくな。遊び足りない娘としっかり遊んでやってくれ」

「ボクたちはレイとゆーっくり休憩してるから󾬚」

「は?ちょ、」

尋常じゃない荷物の数に、イルミは両手も視界も塞がってしまう。その隙にヒソカとクロロは隣を通り過ぎ、なんとか振り返って確認すれば、ちゃっかりレイの手まで握っているではないか。

「リル、パパに遊んでもらえ。パパはああ見えて子供心がわかる奴だ」

「えぇー、やだパパつまんない」

「うーんやっぱりいくらそっくりでもボクはレイの方がいいなあ󾬝」

「えっとじゃあ、せっかくですし皆さんでご飯行きますか?」

リルの面倒を見てもらったお礼です、なんて、なに馬鹿なことを言ってるんだろう。そもそもヒソカが家出の手伝いをしなきゃ、こんな面倒なことにはならなかったのに。
イルミが反対の意を唱えようとすると「ねぇイル、たまにはいいでしょう?」そう言ってにっこりと微笑んだ彼女はとても幸せそうで、口先まで出かかった言葉を思わず飲み込んでしまった。

「はぁ……ヒソカの奢りね」


とりあえずこの荷物は邪魔だから自宅に送ってしまおう。
なんだか変なメンバーで食事をすることになってしまったが、たまにはいいか、なんて思ってみる。
もちろんたまにだけど。

「なんだかんだうちはワガママな子ばっかだね」

「え、私もワガママ?」

きょとん、としたレイはイルミが嫉妬するかもしれないなんてことを考えてもいないに違いない。現に今だって、イルミはちょっぴりむかついてもいる。

…ま、レイのワガママは聞いてあげたくなるけど。

「ごめんね、イル」

父親ぶってヒソカ達には説教したけれど、まだレイのことでは下らない嫉妬をしてしまう自分がいた。
けれどなんだか悔しいから最後の言葉は言わない。

「別にいいよ、それよりどこ行く?」

そんなに嬉しそうな顔をするなら、もっと早くに連れてきたのに。

「わたし、パフェ!おおっきいパフェ食べる!」

「はいはい、リルはわかってるから」

元気よく手を挙げた娘に、とうとうおかしくなってくす、と笑ってしまう。本当は家出のことをもっと怒らなければならないのだが、それは帰ってからでいいだろう。
イルミは迎えの車が来るのを待ちながら、レイとリルのワガママを足して2で割ったら丁度いいくらいだろうなぁと考えた。

End

[ prev / next ]